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一体何歳なのか
第一章
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               一体何歳なのか
 野村胡堂の代表作に銭形平次がある、この作品はドラマ化もしておりこのドラマが何と八百八十八話まで続くという驚異のロングラン作品となった。
 投げ銭を投げて悪人共を倒すことがトレードマークで酒はあまり飲まないが煙草は作中では尻から煙が出る程吸うとあるがこれは安煙草だ、女房のお静は美人でいつも長屋の中を奇麗にしていて貧乏暮らしをしている。そして子分に八がいる。
 だがこの銭形平次の時代劇をたまたま時代劇を専門としているチャンネルで観ていてだ、もう隠居して久しい老婆泉屋雅子はこんなことを言った。
「この人一体幾つだい?」
「銭形平次が?」
「そう、幾つなんだろうね」
 たまたま一緒にテレビを観ていた娘の裕香に言った、雅子は髪の毛を赤いパーマにしていて八十過ぎの割には散歩を欠かさず身体にいいものを食べる様にしていて実に健康的な感じで声も元気だ。その顔で丸い二重の瞳と面長の顔と小さいやや先に出た唇と高めの鼻、黒髪を奇麗に伸ばしている五十になったばかりの娘に尋ねたのだ。
「今ふと思っていたけれど」
「三十一とか言ってなかった?」
 裕香は八に大変の大安売りでもあるのかと言う平次を観つつ母に返した。
「確か」
「そういえばそうだったかい?」
「ええ、劇の中でもね」
「じゃあこの人ずっと歳を取らないのかい」
「三十一歳でね」
「それはいいね」
「そうよね、私だってね」
 裕香も五十になって言うのだった、それで神経痛とかリウマチとかがそろそろ気になりだしている。二十代でハンバーガーのチェーン店の正社員として頑張っている娘のゆきよが羨ましく感じだしているが羨んでも仕方ないとも思っている。
「ずっと三十一歳なら」
「いいよね」
「そうよね、もうずっと三十一歳」
「こんないいことはないね」
「理想の生活よね」
「全くだよ。ただ銭形平次って最初は白黒だったね」
 雅子はその頃のことから話した。
「そうだったよね」
「それかなり昔の頃じゃない」
 白黒と聞いてだ、裕香はどうかという顔で返した。
「私その頃生まれてないわよ」
「あんたはカラーしか知らないね」
「白黒テレビなんてね」
 それこそとだ、裕香は自分の隣にいて一緒に観ている母に返した。
「それこそね」
「観たことないね」
「そんな頃のことはね」
 それこそというのだ。
「観たことないし」
「知らないね」
「今度放送したらはじめて観るわ」
 裕香の年代的にはそうなるというのだ。
「私は完全にカラーテレビの世代だから」
「昔は白黒ばかりだったんだよ」
「だからその頃のことはね」
 裕香にとってはだ。
「もう知らない時代だから」
「そうなんだね。それでその白黒の頃の銭形平次だけれど」
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