1st season
10th night
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あれは何というか、次元が違うね」
赤いFDと赤いS15に乗る二人。現在C2エリアで最速と言われているドライバーだ。佇まいは哀愁の漂い始めた頃のくたびれた社会人にしか見えないが。
「アレに乗って出てきた奴とは本気で戦ってくれって言われたけど、あんなもん乗りこなされたらウチのモンにも勝てやせんわ」
「底が見えないもんなぁ、あの車は。何をどうしたらあんな風に仕上がるのか」
「聞きたいけど聞きたくないね。「D」って奴もそうやって産まれたって話だが」
空いた丼の器をゴミ箱へ叩き込み、二人は店を出た。周辺には飲兵衛共が散らかしたのか、アルコールの空き缶が散乱していた。
再び芝浦PA。噂になっている黒いNSX−Rと、名前が売れてきた黄色のRX−8を見てか、彼らが入ってきてから少し人だかりができてきた。
「……さて、帰る前にもうひとっ走りしてくるかな」
先にタバコを消した疾風が立ち上がり、口を開いた。それを聞いたグレーラビットが疾風を呼び止める。
「……なぁ、今から時間あるか?」
「どうした?藪から棒に」
「……久しぶりに会ったんだ。一勝負いいか?」
その瞬間、疾風の目が変わった。しかしそれは、どこか彼を非難するような色だった。
「……舐めんのも大概にしろヨ。俺を馬鹿にしてんのか?」
「……どういう意味だ?」
「お前、そのクルマに乗り換えてどれくらい経つヨ?」
それに対してグレーラビットは返せなかった。呆れたように疾風は続ける。
「前のZなら受けた。それはお前が手足のように扱えるのを知ってるからだ。サーキットを転戦してた頃から見てたから知ってる」
「……今の俺じゃ、勝負にならないって言いたいのか?」
「わかってんじゃねぇか。せめてそいつを抑えきってからモノを言えよ。俺はテメェのダチでもなんでもねぇってこと忘れてんじゃねぇだろうナ?」
突き放すような物言い。あくまでここで、戦場でたまたま出会っただけの関係であり、それ以上でもそれ以下でもない。疾風の視線がそれを物語っていた。
「テメェがソイツに命を載せれるまで、テメェとは走らねぇ。やりたきゃソイツを乗りこなすか、またあのZに乗ってから来い」
そう言い放つと、返答できなかったグレーラビットを無視し、一人PAを離れていった。
「……冗談じゃねぇ……」
口癖のような一言をこぼしつつも、彼はまだ動くことができなかった。それは屈辱か、それとも自責か。
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