暁 〜小説投稿サイト〜
至誠一貫
第一部
第六章 〜交州牧篇〜
八十八 〜波乱の始まり〜
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「では、こうしましょうー。稟ちゃんは、すぐに星ちゃんか愛紗ちゃんを連れて来て下さいね」
「歳三様と風はどうするのです?」
「とりあえず、その怪しげな方々のところにお兄さんを案内するのですよ。場所は、このあたりですねー」
 と、城内の地図を示す風。
「では、星らを呼んで参ります。歳三様、私が戻るまで決して、手出ししないとお約束下さい」
「決して、か。それは出来ぬ」
「ならば、私は歳三様の傍を離れる訳にはいきません」
「早合点するでない。臨機応変に、と申しておる」
 そう答えながら、私は立ち上がった。
「稟。気持ちは嬉しいが、此所で議論をしていても始まらぬ。私は参るぞ」
「……止めても無駄のようですね。わかりました」
「心配要りませんよ、稟ちゃん。風もついていますから」
「ふふ、そうでしたね。では」
 体力のない稟に、斯様な真似をさせるのは好ましくないが……やむを得ぬ。
「風、参るぞ」
「御意ですよー」
 そう言いながら、風は私の手を握る。
「風?」
「ああは言いましたけど、風だってちょっとは怖いのです」
 その言葉が偽りではない事は、身体の震えが証明していた。
「……わかった」
 その手を握り返すと、私は歩き出す。

「あれか」
「はいー」
 一見、焼け出された難民と言った風情の男女が、路傍に座り込んでいる。
 衣服も襤褸であり、その姿を見て疑う者はおらぬであろう。
 ……だが。
「目付きが気に入らぬな」
「ですよねー。途方に暮れたり、自分を見失っている人ならもっと生気がない筈ですよ」
 それに、頻りに辺りを窺う様といい、不審極まりない。
「しかし、良く気がついたものだな」
「いえいえ。猫さんと交流を図ろうとしていたのですが」
「……それで?」
「猫さんがですねー。見慣れない人間がうろうろしていると教えて下さったのですよ」
 何処までが本当の話かはわからぬが、今は置いておく。
「一味はあの全員か?」
「いえいえ、もう一人いる筈ですけどねー」
「ふむ……」
 と、一味の一人が立ち上がった。
 その向こうから、我が軍の兵が一人、やって来るのが見えた。
「風。あの兵、妙だと思わぬか?」
「…………」
 風はジッと、その兵を見つめる。
「ですねー。風もお兄さんに賛成です」
「残る一人とは、あの兵ではないのか?」
「……みたいです。風は見た時とは、髪型とか服装が違いますけどね」
 一味は何やら話しているが、此所までは声が届かぬ。
 そして、再び周囲を確認すると、連れ立って歩き出した。
 星はまだか。
「お兄さん。どうなさいますか?」
「やむを得ぬ。風、済まぬが手伝ってくれ」
「御意ですよー」

 歩き出した一味の行く手を、私は遮る。
「おい」
「これは土方様」
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