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煬帝
第一章
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                煬帝
 これは隋が建国されて間もない時のことである、隋の皇帝の次子に楊広という者がいて皇帝は彼の兄の長子楊勇を太子に立てると共に彼を晋王に封じ国の北の守りを任せた。
 皇帝は彼についてだ、重臣達に言っていた。
「広は英傑の器、だから次子だからというだけでなくな」
「そのご資質もあってですね」
「晋王に封じられたのですね」
「そうだ」
 王は王族だけがなれるというのは中華では漢代の頃よりだ、僅かな例外もいるが大抵はそうなっている。
 そしてその王の中でも封じられる国によって格がある、晋は秦や斉と並んで非常に格が高いとされているのだ。
 楊広をその晋王に封じた、皇帝はそれは彼の資質によるものだというのだ。
「あの者ならやってくれる」
「晋王としてですね」
「それに相応しいことをして下さる」
「そうされるのですね」
「間違いなくな、しかし」
 ここでだ、皇帝は眉をやや顰めせてこんなことを言った。
「気になることがある」
「といいますと」
「それは」
「うむ、皇后は何も言っていないし朕も気のせいだと思うが」
 それでもというのだ。
「何かよからぬ気も感じる」
「よからぬですか」
「そうしたものも」
「何かな。何度も言うが気のせいだと思うが」
 それでもと言う皇帝だった。
「そうしたものも感じるのだ」
「晋王様から」
「そうなのですか」
「その点は勇にはないからな」
 長子であり太子である彼にはというのだ。
「だから余計に思うのやもな」
「流石にそれは気のせいかと」
「晋王様は立派な方です」
「文武に通じておられます」
「政の識見もおありですし」
「何も心配はいらぬかと」
 多くの重臣達はこう言って皇帝の楊広に対する懸念は杞憂だと思い皇帝にもこう話した。そしてある日のこと。
 楊広が狩りに出てその帰りの時にふとだった、道の脇にどいて自分と供の者達に対して控えている民達の中に一人の道士を見た、すると楊広は馬車を止めさせてその道士に声をかけた。
「そこの者よいか」
「何でしょうか」
「そなた見たところかなりの者だな」
 その道士の資質を一目で見抜いて声をかけたのだ、楊広は利発な男で人を見抜く目もかなり備えているのだ。
「そうではないか」
「いえ、私めはとても」
「謙遜せずともよい」
 楊広は実際に謙遜している道士に鷹揚に笑って返した、
「今は余も宮中におらぬ、砕けてよいぞ」
「左様ですか」
「それでじゃ。そなた徳があるだけでなく学識も備えていると見るが」
 彼のその顔を見ての言葉だ。
「人相見は出来るか」
「はい」
 道士は楊広に今度は謙遜せずすぐに答えた。
「そのことも習ってきました」
「そうか、では少し余の顔を見てくれるか」

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