第五章
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「これは大阪で暮らす様になってから覚えた」
「そうした驚かせ方ですか」
「元々阿波におったが明治の頃に大阪に出たのじゃ」
「それでおばちゃんポポちゃんとも知り合ったんですね」
「うむ、二人の小さい頃からのう」
老婆は紗佳に目を細めさせて答えた。
「知り合いで友達じゃ」
「そうですよね」
「さて、ではな」
糸引き娘はあらためて言った、外見は何時の間にか老婆のそれに戻っている。
「今から色々話そうか」
「宜しくお願いします」
「もう驚かさんから安心せい。お茶菓子もあるぞ」
それもあるというのだ。
「羊羹は好きか」
「はい、かなり」
「ではそれを食べてお茶を飲みながらな」
「三人で、ですか」
「話そうぞ」
糸引き娘は健児に笑顔で応えた、そうしてだった。
彼は紗佳と共に今度は糸引き娘とも話をした、妖怪は実に気さくで明るく健児は楽しい時間を過ごせた。そして最後家を後にする時に彼女に言われた。
「紗佳ちゃんを宜しくな」
「はい、頑張ります」
健児もこう答えた、そうして二人で帰路についたが。
まだ十二時半だった、それで紗佳は健児に言った。
「これから何を食べますか?」
「そうだね、紗佳ちゃんが好きなものかな」
健児は紗佳を立てて言った。
「それでいいかな」
「では近くにいいラーメン屋がありますので」
「そこでだね」
「食べましょう」
「それじゃあね、けれどここにも妖怪がいるんだね」
健児は昼の東天下茶を歩きつつ紗佳に言った。
「そうなんだね」
「面白いですよね」
「そうだね、妖怪ってのは案外ね」
「気付かない人もいますが」
「あちこちにいるんだね」
「街中にも」
東天下茶屋のだ。
「いますよ」
「そうだね、そのこともわかったよ」
健児は紗佳にしみじみとした口調で述べた。
「今ね」
「それは何よりです」
「うん、じゃあね」
「はい、今から二人で」
「そのラーメン屋さん行こうか」
「これから行くお店も馴染みですが」
それでもとだ、紗佳は健児に笑顔で話した。
「しかしです」
「妖怪はいないんだね」
「そうです、ですが美味しいので」
「そこは期待していいんだね」
「はい、それでラーメンを食べてからは」
紗佳は健児に微笑みつつさらに話した。
「西宮に帰りますか」
「それか難波で遊ぶか」
「それもいいですね」
紗佳は健児の提案に今度は普通の笑顔になった、そのうえで彼を今度はラーメン屋に案内した。気のいい妖怪を紹介した後で。
糸引き娘 完
2018・10・29
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