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逆さの砂時計
純粋なお遊び
合縁奇縁のコンサート 10
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。急遽、私直々の応援兼視察が決まりましたの」
「……へぇええー……。そりゃまた、大変そうだ」

 主に、仕事中に突然寝床へ強制送還された神父達が。

「ロザリア様も、体調にはくれぐれもお気を付けくださいませね?」
「ご忠告、どーも」

 決めた。
 私、コイツにだけは絶対、何があっても敵対しない。
 封印を解いても勝てる気がしねぇもん。

「そうそう」
「?」

 扉を中途半端に開いたプリシラが。
 境を越える寸前で、取っ手を握ったまま振り返る。

「ロザリア様は先ほど、クロスツェルと向かい合って、互いの良いところも悪いところも全部、正面から受け止めたい、と仰られていましたね?」
「……言ったけど」

 改めて聞き返されると、地中深くまで穴を掘ってその中に入りたくなる。
 全身むず痒いっていうか、なんというか……とにかく、やめてほしい。
 いたたまれない。なんかすごく、いたたまれない。

「それがどうかしたのか?」
「縁に切れ目を入れるのは、たった一つの小さな違和感です」
「?」
「些細な違和感は、疑問へ。疑問は不信感へ。不信感は不快感へ。不快感は嫌悪感へと繋がっていきます。その先で待っているのは、積もりに積もった相手への憎悪の爆発か、己を護る為の無関心か、己への失望による空虚か。いずれにしても一度嫌悪まで行き着いてしまったら以後、己と相手の感情をすり合わせるのは、至極困難であると言えるでしょう」
「…………で?」
「困難な状況に陥っても、相手の気持ちとまっすぐに向かい合いたいという情意。それを的確に表す呼び名。私は一つしか存じ上げておりませんのよ、ロザリア様」

 しっかり向き合えると良うございますね。
 本当は、とうにお気付きでしょうけれど。

 花も綻ぶ温かな微笑みを浮かべた聖職者は、首を傾げる私を一人残して、扉の向こう側へと滑り込んだ。
 空間を隔てる硬質な音も、この耳が確かに受容した。
 だから。
 うつむいて頬を膨らませた私の呟きなんぞ、聴こえちゃいないだろう。


「…………余計なお世話だっ」







vol.14 【i・ji・wa・ru】

「では、失礼します」

 隣室の物音を完全に遮る木製の分厚い扉が、ゆっくり静かに閉じられた。

「「「「「…………」」」」」

 男女合わせて六名が集う執務兼応接室内に、気まずい静寂が広がる。

 プリシラが出て来る直前までの和気藹々(わきあいあい)とした空気は今や、痛々しい人を適度な距離で見守るかのような、幼子と蝶がお花畑でたわむれる微笑ましい光景を目の当たりにしたような、生温かいものに取って代わってしまった。
 それが私一人に集中するのだから、もう、気まずいなんてものじゃない
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