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美山美森の美徳
第9ヶ条
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 花陽は先程までとはうって変わって、今度は『うーん』と大げさに手を顎にあてて悩み始めた。いや、しぐさがあざといぞ、あざとすぎる。

「…気になったのかな?」

 それは小声でまるで自分に問いかけるかのような言い方。

「気になった?」

「あっ。いやいや、じゃなくて。そうじゃなくて」

 急に慌てて何かを否定し始めた花陽に若干ついていけてない俺。

「そうだ。今日ね、スイカを伊笠の家に持っていったの。そうしたら、お母さんが『ヒナオは出かけてて今はいないよ』って言われてね。スイカはね、親戚から貰ったもので、伊笠もスイカ好きだったな、と思っててね」

 急に早口でまくしたてられた俺の気分はどうだ。文法もめちゃくちゃな気がするしさ。いくら国語が苦手な花陽だからって。

「それでね、それで」

「いや、分かったから大丈夫。確かにスイカおいてあったし、あれは花陽が持ってきたものなんだな。ありがとう」

 情報の上乗せを試みる花陽を止めて、俺は感謝の意を伝えた。

「ああ、うん。良いってものよ」

 花陽は少し落ち着いたかと思ったら、次は両手を腰に当てて胸を突き出し誇らしそうな表情を浮かべた。いや、花陽の感情はジェットコースター並みに動きすぎだろう、と幼馴染の驚くべき変化の様にたじろいでしまった。

「いやー、本当に花陽は昔から変わらないよな」

「何がよ?」

「そのコロコロと変わる表情とお節介な性格。見てて飽きない」

 俺の言葉に花陽のほっぺたがお餅かのように大きく膨れる。

「何それ、私のこと馬鹿にしてるでしょ?」

「ちょっとだけ」

 花陽は『もう』とだけ言うと、そっぽを向いてしまった。しかし、俺にはわかっている。これは本当に怒っているわけじゃないことを。

「しょうがない。許してやるか。伊笠だしね。…アイス3つつけてくれたらね」

 …ほらね。こうやって俺からアイスをせびろうとする手口なのだ。

「まったく。まったくだよ。いつもの花陽のやり口だ」

 ニヤニヤしながらやれやれと肩をすくめる俺を見て、花陽は急にまっすぐに視線を俺に合わせてきた。

「…?」

「あんまり急に変わりすぎないでね。私、追いつかなくなっちゃうよ」

「え…、あ、ああ」

 変に真面目なトーンで言うものだから、意味があまり分からなかったが思わずそう返事をしてしまった。

 花陽と別れた後、自宅にて花陽が持ってきてくれたという西瓜を早速食べてみた。

「…塩、かけすぎたかな。ちょっと辛いや」

 今夏はじめて食べる西瓜は少し、ほんの少しだけ塩をまぶしすぎたようであった。
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