純粋なお遊び
合縁奇縁のコンサート 9
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向かい合うフィレスとミートリッテ。
二人の手元には、緩衝材を水で洗い流した後の濡れた百合根がある。
ペリペリと一枚ずつ剥いては、ローテーブル上のザルに積み重なる鱗片。
他には同室している者の呼吸音しか聞こえない中。
ふと、ミートリッテが顔を上げてフィレスを捉えた。
うつむき無言で百合根を剥く彼女は、どこか落ち込んでるように見える。
「あの、フィレスさん」
「はい」
意を決して話しかけたミートリッテに、顔を上げて応えるフィレス。
光が無い目を百合根から離した彼女は、それでも作業の手を止めない。
ミートリッテも、百合根を剥きながら言葉を続けた。
「先ほどお話しした『お父様』のこと、なのですが」
フィレスの肩が小さく跳ねる。顔色も、一層落ち込んだように見える。
しかしフィレスは冷静を装っているのか、表情だけは変えなかった。
「……なんでしょう」
フィレスの手元で、百合根がペリ、ペリ、と音を立てている。
その隣で同じく百合根を剥いているソレスタが、ん? と首を傾げた。
「実は、厳密に言うと『お父様』と私に親子関係はありません」
「え」
フィレスの手元で、ぱきんっ! と鋭い音が鳴る。
中途半端に折れた鱗片が、フィレスの右手から離れない。
「私も、この件に関する詳細は、五年ほど前に知ったのですが」
ミートリッテは語る。
自身が隣国から来た密入国者だったこと。
当時は一般民でしかなかった元義賊のハウィスが、ミートリッテを養子に迎える為に、ソレスタ指揮下の軍属騎士へ就任したこと。
密入国の罪を隠し、ハウィスとミートリッテの養子縁組を認めた関係上、ソレスタにもミートリッテに対する監督責任が生じていること。
他国がミートリッテの素性をアルスエルナ王国の弱みに仕立てないよう、またミートリッテ自身にも自戒を促すよう、親子関係を強調していること。
つまり、ソレスタとミートリッテは建前上の家族なのだということを。
罷り間違っても血縁などではない、ということを、切々と語った。
「…………そう、ですか」
形が悪い鱗片をザルに入れ、剥き剥き作業を再開するフィレス。
その顔色は、話の途中から徐々に赤みを取り戻し。
話が終わった今や、濁っていた両目にも光と生気が満ち溢れている。
「そういうこと、だったんですね……!」
ペリ、ペリ。ペリペリ。ペリペリペリペリ。ペリペリペリペリペリペリ。
顔はミートリッテに向けたまま、手元だけが速度を上げて動く。
ペリペリペリペリペリペリペリペぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ。
正確無比で美しい鱗片の高速製造機と化していくフィレス。
傍目にも分かりやすく上気していく
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