番外編その1 鉄砲水と絆の英雄
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肩を、十代がポンと叩いた。
「それなんだけどな、もう大変だったんだぜ?遊星よりもさらに先の未来から、パラドックスってデュエリストが……」
「……ら。おい、清明!」
三沢に肩を揺さぶられながら自分の名前を大声で呼ばれ、ようやく我に返る。いつの間にか、がっつりあの日のことに思いをはせていた。そうだ、三沢にあの話をどう話そうか。あの時に十代から聞いた時空を超えるデュエリスト、パラドックスのこと、そしてあの後、元の世界に帰っていった遊星のこと。あの事件によって様々な時代で起きた一時的な歴史の改変は全部赤き龍がその帰り際になかったことにしてくれていたと思っていたけれど、まさか覇王の異世界から偶然その時の様子を見られていたとは。
うんうんと唸っていると、先にため息をついたのは三沢だった。
「まあいいさ。観測に成功した以上、何かが起きたことは間違いないからな。いつの日か必ず、2年前に何が起きたのかを俺自身の力で突き止めて見せるからな。あまり全部ネタバラシしてもらっては、研究の面白みもなくなってしまう」
そういって景気づけのつもりなのか、手にしたままのグラスの中身をぐいっと一気に開ける。空になったグラスをテーブルに置き、じゃあ後でな、と手を振って人並みの中に消えていく。ほかにも懐かしい顔はたくさんいるから、そちらの挨拶に向かったのだろう。
今度こそ壁の花となったところで、遊星とのデュエルに思いをはせる。結局この2年間、あれほどに僕の全てを燃やし尽くすほどのデュエルは経験していない。心当たりは何人かいるのだが、十代はあれ以降もまた世界中ほっつき歩いていて今日だって会えるかどうかわかったものではないし、カイザーはサイバー流道場を翔に譲って以降決して自分では戦わない生活を送っているという。ただ僕が求めているのは、そういう意味での強者ではない。あの2人は確かに馬鹿みたいに強いけれど、だからといってシンクロモンスターを、あるいはエクシーズモンスターを、遠慮せずに出せる相手ではない。僕だけが持つカードというのならばまだしも、僕だけが所有する概念というのはフェアではない、だけどまたエクストラデッキの彼らと一緒に戦いたいという抗いがたい誘惑。
だから僕は今、悩んでいる。全力を気兼ねなく出し切れる相手との戦いに対しての渇望を癒すために、時折頭をよぎっては離れないある突拍子もない考えに。
「どうしようかね……」
自分でも気づかなかったけれど、もしかしたら今日ここで同窓会を企画したのはどんな形にせよ、この自分の中の迷いにけりをつけようと思ったからかもしれない。ふとそんなことも考えて、口からこぼれた小さな言葉は室内の喧騒にまぎれ、ちぎれてどこかへ消えていった。
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