シルフィ
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っと兄さんに守られて生きてきたのね」
いつかの彼女の言葉を、そのまま返してやった。
彼女は歯を食いしばって痛みをこらえながら、私に反論してきた。
「あんたには、ヴィレントの苦しみなんてわかんないでしょうね。育ててくれた相手に平気で刃を向けるあんたには!」
今度は左太腿を突き刺す。彼女は金切り声をあげて膝をついた。
いい気味だ。
兄の苦しみ?
私には、彼女が何を言っているのか全く分からなかった。
「他人のあなたに、何がわかるの?」
いつか怒鳴るように浴びせた言葉と同じことを私は、しかし今度は薄笑いを浮かべながら、穏やかに言った。
刺さった剣は抜いていない、彼女の足に突き刺したままだ。血がどんどん溢れ出してくる。
「あ、あんたなんか……、ヴィレントに……手も足も出ない癖にっ! ヴィレントにやられちゃえば……いいんだっ!!」
さらに剣を深く突き入れた。甲高い悲鳴が響く。
うるさいなあ。
私は剣を引き抜いてやった。
抜かれた時にも同じ悲鳴が上がる。
彼女は刺された部分を抑えて、のたうち回った。
いい気味だ。
「だ……誰か……」
彼女は足を引きずりながら、私の脇を抜けてテントの出口に這って行こうとしていた。
「無駄だよ? 外の人は私が全員殺したから」
親切にそう伝えてやるが、彼女の耳には届いていないようだった。
呻き声を漏らしながら地を這うその姿は、美しかったはずの彼女のとても醜い姿だった。
もういいか。
私はゆっくりと歩き寄り、右手を振り上げる。そして、逆手に構えたその剣をまっすぐ突き下ろした。
さようなら、シルフィ。
「!?」
背中から心臓を一突き。血が水たまりのように広がり、何度か痙攣した後、彼女は動かなくなった。
私は立ち上がり、剣をしまった。もうこの近くに戦える人間は残っていないだろう。
ここに戻ってきてこれを見た兄は、どう思うだろうか?
怒り狂うだろうか? 絶望するだろうか?
どんな形でもいい。兄を苦しめられたのなら、それで。
これで仇が討てたのかな? ネモ。
動かなくなった彼女を見下ろしながら、自分の中に問いかける。
いや、これはあくまで兄に同じ痛みを与えてやったに過ぎない。本当の復讐は、兄自身に与えてやらねばならないと思った。
だが、今の私では兄には勝てない。どうすればいい?
私は一旦考えるのをやめて、テントを出た。
とりあえず、私は陣に残されていた糧食に火をつけた。
量が少ない。殆どは進軍した部隊が持っていったのだろう。こんな守りの薄い陣に多くの糧食を放置するよりは納得できる話だった。
それでも、多少の痛手にはなるはずなので、実行しておく。
もし敵本隊が近くにいたら、煙を見て引き返してくるかもしれない。私
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