第三章
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「喜んで、ただ」
「ただ?」
「岬さんはまだ六歳です」
水本は非常に真面目な性格だ、それで園児達にも常に生真面目に正面から対等かつ公平に向かい合っている。それは奈津美に対しても同じで。
「よくお考えになって下さい」
「私の考えは変わらないよ」
子供心でだ、奈津美はこう思っていた。
「絶対に」
「そうでしょうか」
「だから高校を卒業したらね」
「その時にですか」
「先生のお嫁さんになりに来るから」
水本のところにというのだ。
「絶対に」
「わかりました、ではその時まで私のところにいらして下さい」
「そうしてなの」
「そして高校を卒業されたら」
その時にとだ、奈津美の言葉を受けて述べた。
「あらためてです」
「先生になのね」
「プロポーズをされて下さい」
こう言うのだった。
「そうされて下さい」
「うん、じゃあね」
「それまで若しお気持ちが変わられましたら」
自分へのそれがというのだ。
「私のところに来られないでいいですから」
「私ずっと来るよ」
「そうですか、では」
「高校を卒業したらね」
プロポーズするとだ、奈津美は言うのだった。そしてだった。
奈津美はいつも彼のところにいる様になった、それは幼稚園にいる間変わらなかった。そして奈津美は小学校に入ってからもだった。
彼のところに定期的に来た、それで両親にも言うのだった。
「私ずっとね」
「幼稚園の先生のところに行ってか」
「そうしてなのね」
「先生のお嫁さんになるから」
この気持ちを言うのだった。
「だから先生のところにも行くわ」
「その気持ちは変わらないか」
「今も
「変わらないから」
この言葉に想いがあった。
「絶対にね」
「そう言うがな」
「あと十年以上あるからね」
「どう変わるか」
「先生もそう言ってたでしょ」
「私は違うの」
断じてという言葉だった。
「それで高校を卒業したら」
「本当にか」
「先生と結婚するのね」
「その為に立派なお嫁さんになる様に頑張るし」
幼稚園の時から母の家事を毎日手伝っている、洗濯ものを入れて畳んで掃除もしている。料理はまだ子供なので教わりはじめたばかりだ。
「それでね」
「本当に立派なお嫁さんになるんだな」
「先生の」
「うん、なるから」
またこう言った奈津美だった。
「頑張ってね」
「その思いが続けばな」
「いいけれどね」
「けれどな」
「まだ十年あるのよ」
両親はまだ現実のものと考えていなかった、自分達の娘が幼稚園の先生だった水本と結婚するということは。
「それならね」
「幾ら何でもな」
「十年の間に心変わりなんてね」
「子供だったら普通だしな」
小学生の様な年齢だというのだ。
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