第五章
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「そうした方ではありません。私共にもどれだけお優しいか」
「そうですね、叱らず寛容で」
「はい、何処までも誰よりもお優しい方なのです」
「そしてその優しさ故に」
「奥方様達の死を悲しまれ」
「私にもなのですね」
「お気遣いをされているのです」
そうだというのだ。
「実は」
「そうでしたか」
「ですから」
「私もですね」
「このことをご承知になっていて下さい」
「わかりました」
マリーは執事に確かな声で頷いた、そしてだった。
ロシナンテの自分への気遣いを喜び、感謝と共に受けた。そのうえで彼の妻として暮らし。
彼にだ、こう言ったのだった。
「私は幸せ者です」
「何故そう言える」
「貴方の妻だからです」
こう彼自身に言った。
「ですから」
「そう言ってくれるのか」
「なりませんか」
「いや」
妻のその言葉にだ、ロシナンテは笑わなかった。彼は笑顔を作ることが出来ないのだ。そうした性分なのだ。
「私もそう言ってもらえるとな」
「それならですか」
「有り難い」
こう妻に答えた。
「ではこれからもか」
「はい、貴方と共に暮らさせて頂きます」
何から何まで厳重なまでに警護されている、それを異様にも息苦しいとも感じていたが今はその気持ちが変わったからこそというのだ。
「喜んで」
「そうなのか。ではな」
「これからも宜しくお願いします」
マリーは微笑み夫に言った、そしてだった。
マリーは夫の厳重な、まるで扉の鍵を数えきれないまでにかけているその中で暮らしていった。そうして友人達にも言うのだった。
「私以上に幸せな者はいないわ」
「あの人と結婚出来て」
「それで」
「ええ、本当にね」
こう言うのだった、そうしてだった。
彼女はロシナンテと終生夫婦として暮らした、そのうえで自分がこの世で最も幸せな者だと言った。彼の妻であるからこそ。
悲しい青髭 完
2018・5・14
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