第一章
[2]次話
大碓命
大碓皇子は景行帝の第二皇子であり小碓皇子とは双子の兄の関係である、宮廷において第二皇子として第一皇子である太子に何かあれば次の太子に選ばれることになっていたが。
太子が成長し身体が頑健で子宝にも恵まれていることからだ、景行帝は宮中にいる者達にある相談をされた。
「大碓皇子だが」
「はい、太子様はご健康ですし」
「子宝にも恵まれています」
「それではですか」
「あの方は」
「もう次の帝になることはあるまい」
帝はこう思われたのだ。
「だからな」
「はい、あの方には何をして頂くか」
「そのことですね」
「今大事なことは」
「そうだ、まず小碓皇子はな」
大碓皇子から見て双子の弟であられるこの方はというと。
「武勇に長けている、だからな」
「はい、九州で朝廷に従わぬ者達がいます」
「あの者達を征してもらいますか」
「そうしてもらいますか」
「そうしよう、あの者は何かと戦ってもらう」
その武勇を以てというのだ。
「是非な、そして大碓皇子だが」
「あの方は武よりも政かと」
「政の方がいいかと」
「ではですね」
「あの方は」
「そうだ、美濃だが」
帝はこの国のことを話された。
「まだ開けてはおらぬ」
「田畑が殆どありませぬ」
「朝廷の威も深まっておりませぬ」
「民も少ないですから」
「それで、ですな」
「あの者に行ってもらってな」
美濃、この国にというのだ。
「あの国に留まってな」
「そしてですな」
「美濃の政に尽くしてもらう」
「そうして頂きますか」
「そうしよう」
こう言われた、宮中の者達は帝のそのお考えに反対しなかった。こうして大碓皇子は美濃に行かれることになった。
そのことを父である帝に告げられた後でだ、皇子は弟君の小碓皇子に言われた。
「私は美濃に行くことになった」
「そうなのですか」
「あの国に入りずっと住んでな」
「そうしてですか」
「あの国を治めよという」
「それが兄上のすべきことですか」
「兄上はお身体が丈夫じゃ」
それならばとだ、皇子は弟君にさらに話された。
「それではな」
「兄上が帝になられることは」
「ない、兄上はお子も多いからな」
「だからですな」
「私が次の帝になることはない」
決してというのだ。
「そうなった、ではな」
「それではですな」
「わしはこれから美濃に入ってな」
そうしてというのだ。
「これからはな」
「あの国を治めていきますか」
「そうする、そしてお主はか」
「はい、九州に下り」
小碓皇子も話をされた、ご自身が父であられる帝に何と告げられたのか。
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