ネモ
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私は、思わず、悲鳴を上げそうになって、自分の口を塞いだ。
ルンフェスの後ろにいたのは、暗闇に2つの目を光らせた、大きな獣だった。
忘れるわけがない。
山の中腹で、私を襲った獣──あのヘルハウンドに間違いなかった。
なんで、あの人があの獣を連れているの……?
あの時、私に襲い掛かったヘルハウンドは、今は、ネモをじっと睨んでいた。
「あ? そんなん、俺の勝手だろうが? こいつは俺が手塩にかけて育てた奴だぜ。女1人、手懐けられないお前とは違うんだよ」
言って、ルンフェスは、獣の頭を撫でる。
「……チェントに何をした?」
ネモは、静かな声で言った。
「何のことかな? と、言いたいところだが、面倒臭え、教えてやるよ」
あっさりと、ルンフェスは白状した。
「あの女は、死んだ。こいつの爪にかかってな」
「なんだと!」
ネモの表情が変わる。
ルンフェスはそれを笑った。
「くくく、傑作だぜ、その顔。そんなにあの女が大事か? 今のは冗談だ、安心しな。俺はあの女の最後は見届けていない」
今のところはな、とルンフェスは続けた。
「あの女は、崖から落ちたんだよ。こいつから逃げようとしてな。ドジな女だぜ。探し回ってたら、こんな時間になっちまったわけだ」
手間をかけさせやがって、と毒づく。
「なるほど、お前1人では勝てないと見て、ヘルハウンドまで持ち出したわけか」
「はあ? 何言ってんだ? こいつを使ったのは、単に、人の手で殺られた形跡を残さないためだ」
ネモの発言に、ルンフェスは、怒るでもなく、心底不思議そうに、そう言った。
聞いていた私も、そんな無意味な挑発をして、何になるのかと思うだけだった。
「今のチェントは、もう、お前や俺より、確実に強い。あいつ自身は気付いていないようだがな」
何を言っているのだろう? ネモは。
私は、ネモとの剣の稽古で、一度も勝ったことがないというのに。
「あいつは原石だよ。今まで教えてきたどんな奴とも次元が違う。まだまだ、強くなる。いずれは、魔王様とも渡り合えるかもしれない」
私は、その発言を、ただ茫然と聞いていた。
この人は、私を恨んでいたのではないのか? 憎んでいたのではないのか?
直接、私を褒めてくれたことなど、一度だってなかったのに。
何故、そんな、少し嬉しそうに、私のことを話すのだろう?
「ついに目まで腐っちまったか。哀れだな、ネモ」
ルンフェスは、冷ややかにそう言うと、やれ、とヘルハウンドをけしかけた。
ヘルハウンドは、一瞬で間合いを詰めると、ネモに跳びかかった。
ネモは、横に避けながら、抜いた剣で、辛うじて、その攻撃を弾いた。
すれ違って距離を取るも、ヘルハウンドはすぐさま追撃をかけてくる。
ネモは、左手に持っていた松
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