暁 〜小説投稿サイト〜
幻影想夜
最終夜「風景」
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 見上げると、薄雲から幽かに溢れる月明かりの中に、得体の知れぬ何かが飛んでいる…。それが何かを落としているのだと分かった。
 その何かが村…いや、もう町と呼ぶべき人々の暮らす場を壊している…。

ー 止めろ!そこには多くの人々がいるのだぞ!ー

 木は叫ぶ。それは声にもならず、誰にも届かず…。

ー 何故か!何故その様な酷いことをするのだ!ー

 それでも…木は叫び続ける。止めろ、これ以上壊すな…と。
 だが、木の思い虚しく…町は跡形も無く焼かれてしまった。

ー あぁ!何故私には誰も助ける力がないのだ…!ー

 自分の無力さに、木は堪らずに嘆いた。
 眼前で起きたことは…決して?生?ではない。道を外れた何か…そう、?生?を侮辱する?生?の道を外れたものだった。
 木は初めて「悔しい」と思った。
 寺は焼けはしなかったが、以前よりも随分小さくなっていた。
 その寺に、連日遺体が運び込まれては、子供たちが遊び回っていた大きな広場で十把一絡げで焼かれて行く…。

ー 人はいつから…この様な残酷な者に成り下がったのか…。ー

 木は居た堪れなくなり、再び眠ることにした…。
 その心は泣き続け…憔悴しきっていた。
 そして…また笑顔の絶えぬ風景を思い描きながら…深い眠りへと落ちて行った…。


「ほら…もう、戻って来なさい!」
 そんな声に、木は起こされた。
 ふと辺りを見回すと、その風景は全く変わっていた…。
 寺はどこにも見えず、そこは広い公園になっていた。近くには噴水もあり、多くの遊具が備えられている。
 遠くを見れば、見た事もない四角い高い建物が聳え、良く見えた山並みは全く見えなくなっていた。

ー 何だ…これは…。ー

 余りの変容ぶりに、木は呆気にとられた。
 木は初め、自分がどこか別の場所へと植替えられたのだと思った…が、ならば掘り起こされる時には、いくら何でも気付く筈。
 そう訝しく思っていると…そこへ幾分腰の曲った老婆と、その孫と思しき十歳程の男の子が来て座った。
「お婆ちゃん。この木って、江戸時代からあるって本当?」
「あぁ、そうだよ。婆ちゃんが生まれるずっと前、ここにお寺があった頃からあるんだ。」
「えっ?ここ、お寺があったの?」
 男の子は目をぱちくりしている。そんな孫に微笑んで、老婆は続けた。
「そう。江戸時代に入った頃に建てられたんだけどね、戦後に無くなってしまったんだよ。でも、この大銀杏だけは伐られずに残されたんだ。」
「どうして?」
 その孫の問に、老婆は暫し言葉を詰まらせた。
 謂れを知らない訳ではないが…ここで語ることではないと思ったのだ。
「さてねぇ…ただ、この大銀杏を伐ると罰が当たるって昔から言われてたんだよ。この大銀杏だけが、水
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