第一章
[2]次話
肯定して欲しくない人
篠枝結奈は自分が否定されることにはどうしても駄目だ、それで自分を否定する様な人は無意識のうちに避ける癖がある。
だが一緒に暮らしている祖父にだ、ある日こう言われた。
「世の中色々な人がいてな」
「お祖父ちゃんよく言うよね」
「御前を罵る人だっているさ」
その結奈を否定する人の話もするのだった。
「けれど違うんだ」
「違うっていうと?」
「御前を肯定してもな」
それでもというのだ。
「御前の何でも肯定して受け入れるとか言ってな」
「騙す人がいるの?」
「そうした人もいる、けれどな」
祖父は孫娘にさらに話した。
「もっと怖い人もいるんだ」
「どんな人なの?」
結奈はわらないまま祖父に尋ね返した。
「一体」
「御前を肯定する、しかしおかしい」
「おかしいっていうと」
「全部肯定するがな」
それでもというのだ。
「闇があるというかな」
「闇がおかしいの」
「狂っているんだ、御前の全部を受け入れながらも」
そうしつつというのだ。
「おかしいんだ」
「何がどうおかしいのか」
「わからないか」
「うん」
実際に結奈は首を傾げさせていた、祖父の言っていることが全くわからなかった。若し自分を受け入れてくれるならそれでいいと思った。
けれどだ、それでもというのだ。
「わしもそうした人は一度会っただけだが」
「おかしな人だったの」
「そうだ、目を見るんだ」
「目をなの」
「そうすれば御前ならわかる」
結奈は勉強は出来ない、しかし決して頭は悪くはない。利発な方だ。孫のその利発さを知って言うのだ。
「目を見ればな」
「そうした人は」
「それでわかるからな」
「そうした人はなのね」
「近寄るな」
決してというのだ。
「いいな」
「わかったわ、けれど」
「どういった人かだな」
「私全然わからないわ」
「そうだな、そんな人は滅多にいないが」
「私を駄目だって言う人よりもなのね」
「そんな人もよくないが」
孫を傷付けた、祖父もそうした人は好きになれず孫娘に近寄らせることはしなかった。それで今もこう言ったのだ。
「しかしな」
「それでもなのね」
「そうした人は一番な」
「近寄ったら駄目なのね」
「若し近寄ったら」
その時はというのだ。
「絶対に逃げろ」
「私から近寄ったら駄目なのね」
「そうだ、逃げるんだ」
決して近寄らずにというのだ。
「そうしろ、いいな」
「わかったわ、そうした人がどんな人かわからないけれど」
それでもとだ、結奈は祖父に答えた。
「そうした人にはね」
「近寄らないな」
「そうするわ」
祖父に約束した、そのうえで。
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