暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
純粋なお遊び
合縁奇縁のコンサート 7
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言ってやりたい。

 ヘタな誘惑なんて、するもんじゃない。と。

「リースリンデは、レゾネクトを見たくないし声も聞きたくないでしょ? 今日は寝室に閉じこもってても良いわよ」
「いえ! 聖天女様は、私がお護りします!」

 自身も怖くて仕方ないでしょうに。
 背中の羽をピンと伸ばして私の左腕にしがみつき、厨房内のレゾネクトを精一杯牽制する、可愛らしい精霊。

 威嚇された当の本人はこちらに背を向け、木箱から取り出した百合の根を丁寧に水洗いしてる。
 まろやかな曲線で構成された色香漂う肢体には不釣り合いに見えるけど。
 白い首筋が覗く程度に短くしてある髪は、調理場に立つ為の配慮よね?
 さらっと小技を利かせるところが、心底憎たらしい。

「ありがとう。じゃあ、百合の根の下拵え方法、教えてね?」
「はい!」

 小さな頭をそっと撫でて、木箱の群れに足を踏み入れる。
 再度流れてきたアーレストさんのお説教を背景音楽に、着々と進んでいく百合根感謝の日の下準備。
 実の娘に捧げられる祭事を、この顔ぶれで迎えるって。
 なんとも言いがたい、複雑な気分だけど……

「貴方……いえ、貴女には負けないわよ! レゾネクト!」
「勝負事なのか?」
「私が剥く数と合わせれば、聖天女様の勝利は揺るぎません!」
「二対一での勝利は嬉しいものなのか?」

 悪魔と精霊と女神の手で、一枚一枚丁寧に剥かれ。
 別途用意されていたザルの中へと、少しずつ積まれていく白い鱗片。
 もう一度水で洗い、下茹でしたり、蒸したり、焼く用に取り置きし。
 最後に人間が手を加え、料理を完成させる。

 数千年前ではありえなかった、もしかしたら『奇跡』とも呼べる一幕。
 まあ、憎悪と嫌悪に塗れて当たり散らす毎日よりは、

「悪くない……かもね」
「そうか。嬉しいのか」
「そっちの話じゃないわよ、ばか。」





vol.9.5 【余談】

 炊き出し会場に突如現れた、謎の金髪美女。
 アーレスト神父の横に並び立つその姿はまるで絵画のようだと、街民達の話題をさらい。
 そんな二人の前には、噂を聞きつけた人々が一目見たさで分配開始前から長蛇の列を作り上げたという。

 しかし。

 その日の炊き出しも、アーレスト神父の予定通りに始まって、予定通りに終わっていたことは、教会の裏手にひっそり居付いている女神と精霊以外に気付いた者はいなかったとか、なんとか。




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