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逆さの砂時計
純粋なお遊び
合縁奇縁のコンサート 7
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リアを起こす為に泉へ行くまでは、人間世界と精霊族が直に関わる機会なんてなかったでしょうに。

「いいえ。アリア様は昔から、信仰に関わる話はされていませんでしたよ。でも、この教会の礼拝堂にある女神像は、間違いなく『マドンナリリー』を持っていますし。百合根に関わる話は、寝室にある本のうちの比較的新しい年代の何冊かに同じ内容が書いてありました。挿絵のほうでも、古い本ほど『マドンナリリー』が描かれていますよね。だから多分、象徴の百合は」
「ごめんなさい。そろそろ泣いても良いかしら。心が折れそうなの」
「へ?」

 キョトンとするリースリンデから顔を逸らし、思わずうつむいてしまう。

 寝室にある本なら、読み切れないまでも一通りは目を通してたのよ?
 挿絵だって、ちゃんと一枚ずつ、しっかり見てた。
 見ていた筈、なのに。
 「ヤマユリ」の単語や話はおろか、百合の形にも全然気付いてなかった。

 文字も絵も人間が使う記号なのに。
 半分は人間の私が、人間嫌いの精霊に、学習率で完敗するなんて……っ

「百合の種類に関しては、捏造でも誤認でもないぞ」
「「え」」
「当時のアリアには、その時期その土地に生えている、白い……現代で言う百合科の花を好んで観賞・研究するクセがあった。東の大陸ではほとんどがヤマユリだったが。同時代であっても違う場所ではカサブランカだったし、アリア信仰を発足させた中央大陸ではマドンナリリーが最も多く、近代ではチューリップもよく見ていたな。要するに、時代を分けた各地で、観賞中のアリアと信徒が出会した数だけ『女神アリア=それぞれの白い百合科の花』という印象が後世に残っただけの話だ。本来、どの花も間違いではない」
「「……え?」」

 この、耳に触れた瞬間、頭の芯に鬱陶しいほど甘く響く声色。
 嫌みったらしく、ゆったりとした口調は。

「強いて訂正部分を挙げるとしたら、村人に鱗茎の食用を勧めたのは俺だ。アリアは人見知りが激しく、初対面の人間とは会話ができなかったからな。おかげで勝手に定着してくれた寡黙な印象が、早々と『神聖』や『荘厳』に取って代わったわけだが」

 この、本当は振り返りたくはないんだけど、振り向きざまに遥か遠くへと全力で弾き飛ばしたくなる、忌々しい気配は??

「レゾッ…………え? なに? …………こど、も?」

 怒りと憎しみと恐怖が混じる衝動に突き動かされ、勢いよく振り向くと。
 私から少し離れた後方、寝室へ続く廊下に、誰かがポツンと立っていた。

 子供だ。
 どう見ても、私の今の器より年下の……三、四歳くらいの男の子。

 色白な耳と首筋を見せる短い金髪に、夕暮れを連想させる紫色の虹彩。
 幼子らしく頼りない体の輪郭に沿っている、真っ黒な上下服と靴。
 声と合
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