第二章
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「この神託は」
「獅子と猪というと」
「そのままの意味か」
「そうではないと思いますが」
「幾ら何でもそれはないな」
「はい、その皮を被った者でしょうか」
「だとすればヘラクレス殿か」
獅子の毛皮をいつも被っていることから獅子とくればヘラクレスというのがギリシアでよく言われるイメージだったのだ、それでアドラストスも彼の名を出したのだ。
「そうなのか」
「ネメアの獅子の毛皮ですね」
「それか」
「いえ、しかしヘラスレス殿は」
王妃も彼のことを知っていて言う。
「もう結婚されています」
「再婚されていたな」
「はい」
そうなったというのだ。
「ですから」
「あの方はないな」
「女性が好きで豪快なお話が多いですが」
「わしは娘達を愛人だのにするつもりはない」
大切な娘達だ、幾ら相手がギリシアでも随一と言っていい英雄でもだ。
「その様なものにするつもりはない」
「決してですね」
「婿を取らせるつもりだ」
正式にというのだ。
「そのつもりだ」
「左様ですね」
「そうだ、だからヘラクレス殿でもな」
「娘達を差し上げるつもりはないですね」
「決してな」
「左様ですね」
「だからあの方はない」
断じてという言葉だった、アドラストスの今のそれは。
「そのことは言っておく」
「それでは」
「獅子は他の方と思いたい」
「神託でも」
「その様にな、しかしな」
「獅子だけではないですね」
「もう一つの獣、猪だ」
そちらの神託のことも話した。
「このことだが」
「それもですね」
「わからない」
どうにもと言うのだった。
「何なのかな」
「猪というと」
王妃がここで思ったものはというと。
「アーレス神でしょうか」
「あの方は猪に変身されたことがあったな」
「それで恋敵を殺されています」
「そうだな」
「あの方でしょうか」
「アーレス神か」
「そうでしょうか」
ここで王妃は複雑な顔になった、そうして夫であるアドラストスに囁く様に話した。
「あの方は神ではありますが」
「そうだな」
「はい」
多くは言わなかった、神であるアーレスのことをおもんばかって。実はアーレスは戦いの神でも同じ戦いの神であるアテナの方が崇拝されているのだ。
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