第二章
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「ケーキといってもパティシエには」
「違うわよ」
このこともはっきりと言う母だった。
「それはもうわかるでしょ」
「ええ、パティシエはケーキ屋さんで」
「工場は作業員だから」
「私は作業員ね」
「そう、知り合いの人も作業員だから」
「憧れの職業とはまた違うのね」
「そのことはわかっていてね」
このこともだ、母は娘に真面目に言った。そして食後は塾に行っている弟や残業続きの父の話をしつつ二人で食器を洗った。
泉水は母の紹介でそのケーキ工場で働くことになった、学校帰りに一週間のうち五時間休日は朝から夕方まで入ることになった。
ケーキ屋での仕事は流れ作業で慣れると何でもなく泉水自身一週間もすれば完全に慣れてしまった。
そして休憩室や作業中の他の作業員達そのほぼ全員が主婦で二十代から五十代の所謂おばちゃんばかりだったが。
彼女達の化粧品と煙草の匂いの中で話すその話についてだ、泉水はよく家に帰って母に対して語った。
「今日凄いこと聞いた」
「何聞いたのよ」
「今宮さんって人いるけれど」
工場の作業員にというのだ。
「元ヤンで昔はバイク乗り回してたとか」
「そんな人いるのね」
「喧嘩もしょっちゅうしたとか」
「それはやんちゃだったのね」
「けれど今は結婚して」
そうしてというのだ。
「子供さん三人いるとか」
「その人がどうしたの?」
「お料理のコツとか私に話してくれたけれど」
「どんなコツ?」
「オリーブオイルを使うと」
この油をというのだ。
「ムニエルも味がよくなるとか」
「バターよりもなの」
「こっちの方がいいとか」
「それ好みによるけれど」
母は娘の話にすぐに答えた。
「実際にオリーブオイルは美味しいから」
「いいの」
「ええ、しかも植物性だから身体にもいいし」
「それじゃあ」
「ええ、その人の言うことはね」
まさにというのだ。
「的を得ているわよ」
「そうなの」
「その人よくわかってるわね」
「あと岩塩とか黒砂糖の使い方とか」
「その人詳しいの」
「そうなの。他には岩城さんって人がいるけれど」
この人の話もするのだった。
「その人はお掃除で」
「何て言ってるの?」
「掃除機で隅を奇麗にするにはどうしたらいいかとか」
こうした話ばかりだ、泉水は工場で聞いていた。そうした主婦の生活の知恵を向上に来る度に聞いたり人懐っこい先輩に笑って話されてだ、何時しか。
クラスでもだ、泉水はクラスメイト達が生活のことで困っているとぽつりとした口調でこう言える様になっていた。
「そこはこうすればいいから」
「そうなの?」
「うん、そうしたらね」
工場で聞いた知識を話すのだった、常に。
「いいっていうから」
「そうなの。じゃあそうしてみ
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