第三章
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「必ずな」
「ではです」
「魚よりいいものをか」
「釣られてはどうでしょうか」
「魚よりいいものというと」
アントニウスはクレオパトラにいぶかしむ顔で返した。
「鰐か」
「このナイルに棲むですね」
「あれか、この辺りにはいない筈だ」
だから泳ぎに長けた者を潜らせて釣り糸に魚をかけさせているのだ、アントニウスはこの辺りの配慮も忘れる男ではない。
「その筈だが」
「鰐なぞではありません」
「違うのか」
「鰐なぞまだまだ小さいです」
クレオパトラは妖艶な笑みを浮かべて言ってみせた。
「それと比べれば」
「国か」
伊達にカエサルに見いだされ将軍となり政治に関わってきた訳ではない、アントニウスもここまで察することが出来た。
「それをか」
「はい、そうです」
「むっ、かかったか」
またアントニウスの釣り糸に引きがあった、また家臣が働いてくれたと思った。だがいざ釣ってみると。
そこには干物があった、それでアントニウスはその魚の干物を見て言った。
「ばれていたのか」
「察しました、途中から」
「ううむ、しまった」
アントニウスは自分の隣にいるクレオパトラに眉を顰めさせて応えた。
「いいところを見せようと思ったが」
「ほほほ、そのお気持ちで充分です」
「そうなのか」
「私を愛しているからですね」
「うむ、そう思った」
「ならばです」
「その気持ちだけでか」
アントニウスはクレオパトラを見て彼女に尋ねた。
「いいのか」
「充分です」
「そうなのか」
「それでなのですが」
「釣りよりもか」
「はい、国をです」
「釣ってみろというのか」
こうクレオパトラに問うた。
「私に」
「そうされてはどうでしょうか」
「カエサルの後継者としてか」
「如何でしょうか」
「わかった、ではだ」
クレオパトラの声を聞いてだ、アントニウスは彼女に応えた。
「私はだ」
「国をですか」
「まずはエジプトだ」
今自分達がいるこの国をというのだ。
「釣る、そしてギリシアにだ」
「ガリアにですね」
「カルタゴ、そしてだ」
「ローマもですね」
「釣る」
宣言する様にして言い切った、それも強い顔と声で。
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