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第三帝国崩壊後のランプ
南米にて
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せる使命を帯びたゲシュタポのエージェントとして思いがけず生まれ故郷の日本に帰国したカウフマンは、使命を達成した直後に祖国の敗北を知り、続けてアメリカの空襲で母が植物状態になったので、途方に暮れたまま8月15日の日本の降伏も迎えた。

 日本の敗北もカウフマンにとってはもはやどうでもよいことであったが、連合国の軍隊が進駐してくるとあてもなくふらついているわけにもいかなかった。憲兵隊に協力を頼むときに助力を願った駐日ドイツ大使館付警察武官兼SD代表ヨーゼフ・マイジンガー大佐も虐殺の罪で拘束されたと風の噂で聞いていたし、SDの一員として反逆者狩りやユダヤ人虐殺に携わっていた自分も危ない。連合国の影響が及ばない国外に脱出しなくてはならないと思ったのである。

 かといって筋金入りのナチスだった自分が公的な方法で出国できるわけがなく、立ち寄った下関港から出る南米行きの大型船に密航して日本から脱出した。いったいどういう目的で出る船なのかカウフマンは知らなかったが、それは満州や朝鮮といった外地に住んでいた日本人が本国に引き上げてきたために、国内の人口が増えすぎて管理しきれなくなったので、国民を外に出そうとする日本政府の移民政策のための船であった。移民への支援はあまり良くないことが多く、棄民政策ではないかという批判もされている。

 かくして南米にたどりついたカウフマンは、元上官のアイヒマン中佐と再会を果たし、彼の紹介で戦争犯罪人扱いされた戦友たちの逃亡生活を支援する活動をしていた元ドイツ空軍の英雄ルーデル大佐を中心とするグループから当面の生活費を与えられてブエノスアイレスに落ち着き、シュテムラー・ウェゲナー商事で働くようになった。

 社長のウェゲナーは南チロル生まれのイタリア生まれの移民ということになっているが、これは偽装である。自分だって偽名を名乗るようになったし、コリエンテス州生まれのドイツ系アルゼンチン人という偽装身分を得ている。そうしなければユダヤ人の追手に追われることになるからだ。ただし、アルゼンチン政府から公認されたも正式なものではあるが。社長であるフリッツ・ベルント・ウェゲナーも元親衛隊員で、大戦中はSDの一員として東欧のある強制収容所の所長を務め、ユダヤ人の大量殺戮に深く関与しているとアイヒマンから説明されており、だからこそここで働くことを承諾したのだ。

 しかしこのことにカウフマンは皮肉な思いを抱かざるを得ない。かつてカウフマンはナチズムの理想に燃えたSSの騎士であった。日本人とドイツ人のハーフであるという劣等感から、まわりからドイツ人として認めてもらおうと必死で、国家に忠節を尽くし、国家を蝕むユダヤ人や反体制分子の摘発と処分に熱烈に取り組んだ。その結果、ドイツ第三帝国は滅び、大日本帝国も滅んで、今や公式上はアルゼンチンの人間にな
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