Ep15 覚醒せよ、銀色の「無」
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〈Ep15 覚醒せよ、銀色の「無」〉
「リュクシオン=モンスター……」
去りゆく怪物を、見据える影があった。
「ゼロ」だ。今日はあの女と一緒ではなかった。
だから彼は、本来はここにいないはずだった。
彼女はあえて、彼を連れていかなかった。
その理由は――
オモイダサセタクナカッタカラ。
「――ッ! 頭が……」
「ゼロ」は頭を押さえた。
その怪物を見た途端、はじけだそうとする記憶。思い出したいのに、執拗な頭痛がそれをさせない。
「ぐ……ああっ!」
脳裏に走った激痛。焼けつくように、突き刺すように。
「ゼロ」はうめき、大地をのたうち、転げ回った。
それでも――これは。
魔物を。見た瞬間、はじけそうになった記憶は、大切なものだから。
苦しくても――苦しくても。思い出さなきゃならない、「ゼロ」はそんな気がした。
(リュクシオン=モンスター)
唯一残った記憶が言うのだ。
(あれは、リュクシオン=モンスターだ)
そして。
「ゼロ」
彼の「母さん」の声。
(違う、あれは、母さんじゃない)
「ゼロ! 何してるの!」
(違う。僕の名は「ゼロ」じゃない)
言っていたじゃないか、と彼は思い出す。あの日、戦った一人の少女が。
思い出せ、思い出せ。あの少女の言った言葉を。
頭痛はますますひどくなり、考えるのすら億劫になる。
歯を食いしばり、痛みに耐え、「ゼロ」はあの日の記憶を呼び戻す。
「ゼロ!」
「ゼロじゃないッ!」
あの少女の、言葉。
『******・*******! 目を覚ましてッ!』
「――思い出した」
彼の頭痛は、消えていた。
「あなたは……母さんじゃ……なかった……」
「何を言っているの? 私はあなたの母さんでしょう」
「違うッ!」
思い出した。思い出せた。あの遠い日の暮らし。父にいじめられ、兄にいじめられ。それでも、どんな時でも。母だけは味方でいてくれた。
「母さんの名はエリクシア! そして、僕の名は――!」
あの子が教えてくれた、彼の本当の名前。
「……僕は、ある国の王子だった」
唯一生き残った、王族。
ゆえに、名乗ろう。思いを込めて。その名は――
「エルヴァイン・ウィンチェバルッッッ!」
叫び、彼は「母」に剣を向けた。
「……運のない子」
「母」は小さくつぶやいて、自らも剣を抜いた。
「ならば殺して差し上げるわ、私の可愛い『ゼロ』――いいえ、ウィンチェバル王国第三王子ッ! エルヴァイン・ウィンチェバルッ!」
「望むところだ! 人の記憶を勝手に操って……。この屈辱は、今、晴らす!」
二本のつるぎが交わった。
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