巻ノ百五十 本丸の死闘その八
[8]前話 [2]次話
「あらゆる結界を張ってきておる、今後はな」
「その結界に護られ」
「そしてですな」
「江戸は栄えていきますな」
「まだ人が集まりだしているばかりですが」
「そうじゃ、この街もじゃ」
これからはというのだ。
「途方もなく大きな街になるぞ」
「そうなりますか」
「この間まで只の草原でしたが」
「そうなる、しかしのう」
空を見続け言う天海だった。
「これでな」
「あの方は」
「間もなく」
「星は様々なものを見せてくれる」
実に、という言葉だった。
「だからな」
「その星が見せるあの方の命運は」
「遂にですか」
「そうじゃ、しかしこれまでな」
天海は悲しんでいなかった、落ち着いている顔で言っていた。
「実に多くのことを成し遂げられた、長生きされて」
「だからですか」
「そうされたからこそ」
「何も思い残すことはないであろう」
遠くを見る目での言葉だった。
「最早な」
「そうですか、最早」
「あの方にこの世の未練はありませぬか」
「左様でありますか」
「そうだと思う、しかし拙僧はな」
天海はここで自分のことも話した。
「もうこれ以上生きてることについてどうも思わぬが」
「いえ、そう言われますと」
「我等も困ります」
「僧正様にはこれからも生きてもらわねば」
「まだこれから」
「そう言うが拙僧はもう百であるぞ」
それだけの歳だとだ、天海は弟子達に笑って話した。
「古稀や米寿どころではないぞ」
「白寿もですな」
「最早」
「そこまで生きて未練があると思うか」
最早というのだ。
「どう思うか」
「ううむ、そう言われますと」
「百歳ともなりますと」
「確かに相当なお歳ですから」
「そこまでとなりますと」
「我等にも」
「そうであろう、実はもうな」
天海自身はというのだ。
「この世に未練はない、しかし天下泰平をさらに確かにする為に働くことは続けていく」
「そのことはですか」
「これからもですか」
「励まれていかれますか」
「そうするとしよう。さて」
ここまで話してだ、天海は弟子達にこうも言った。
「寝る前に座禅を組むか」
「今宵もですか」
「そうされますか」
「学問と修行は続ける」
百歳になったとも言われる今もというのだ。
「そうしてな」
「次の生でもですな」
「それは続けられますか」
「そうじゃ、僧であるならばな」
それならばというのだ。
「この二つを止めてよいのか」
「確かに」
「それはなりませんな」
「では、ですな」
「今宵も」
「座禅を組んでから寝る、そしてな」
さらに言う天海だった。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ