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ラジェンドラ戦記〜シンドゥラの横着者、パルスを救わんとす
第三部 原作変容
第二章 神徒駆逐
第三十五話 皇帝葬送
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間、ルシタニア軍中に幾つかの声が響き渡った。

「ルシタニア皇帝ギスカールが逃げたぞ!」

「財宝だけ抱えて逃げ出したぞ。我々を見捨てたんだ!」

「ルシタニアの軍旗は泥にまみれた。もはや取り返しがつかぬ!」

「やめたやめた、これ以上誰のために戦うというのだ!」

「臣下を捨てて逃げ出すような主君に捧げる生命などないわ!」

まるで何処かで聞いたかのような声と共に兜が地面に叩きつけられる音がし、それを皮切りに幾つもの兜が次々と地面に叩きつけられ、多くの騎士たちが力なくうなだれてその場に座り込んでしまった。ルシタニア軍は崩れ去った。昨年秋に、アトロパテネでパルス軍が敗滅したときとそっくりそのままの状況であった。

そして、そのときを見計らっていたかのように叱声が上がった。

「今だ!マルヤム軍突撃!目指すは皇帝ギスカールただ一人!戦意のない者などには目もくれるな!」

本陣に斬り込んできたその一団は、あっという間に俺を取り囲んだ。そしてその中から一人の女騎士が進み出た。兜を脱ぐと豪奢な金髪が広がった。

「久しぶりだな、王弟、いや今は皇帝陛下か、ギスカール殿。まさか私をお忘れではあるまいな?」

その覇気に満ちた艶やかな声。十年ほど前に勅使としてルシタニアを訪れ、私を婿に欲しいなどとほざいた、マルヤム王室の長女のものに間違いなかった。

「み、ミリッツァ内親王!?馬鹿な、お主生きていたのか!」

「何故か最近会う人会う人そう言うな。この通り生きているとも。全く、お主が大人しくマルヤムに婿に来てくれれば良かったものを。兄の傍を離れる訳にはいかないとか言って断るものだから、こんな仕儀になってしまったではないか!」

「当たり前だろう。あの兄を放置して婿になど行けるものか!兄だけに任せておいては私の祖国ルシタニアが滅んでしまうわ!」

「だからお主がマルヤムに入婿してルシタニアを併呑すれば良かったのだ。労せずして二つの国が手に入ったというのに、変なところで兄思いだから立ち回りを間違えるのだ、お主は!」

「な…」

それは思いつかなかった。私の思考はあくまでも自分がルシタニアの至尊の座につくことのみで占められていた。…今となってはあんな貧乏国、パルスと比べれば惜しくも何ともないがな。

「にもかかわらずお主は自分の血塗られた道を迷うことなく進み、マルヤム・パルスを血泥に沈め、そして今度はお主自身もそこに沈むことになった訳だ。ではギスカール殿、大人しく縛についてもらおうか。お主の首を欲しがっているのはマルヤムの遺児のみではないのでな!」

周りを見回せば、もはや味方は逃げ散ったか、骸となって倒れ伏したか、抗戦する気力もなくして座り込んでいるかしかなかった。私は降伏を選ばざるを得なかった。

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