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整備員の約束
6. 香煙
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たら……逃げろよ……ッ」
「ハァッ……ハッ……うるせぇ……徳永……ッ」
「んぶッ」

 そうして暫くの間、互いに相手の唇を求めた後、木曾が俺から唇を離し、そのまま俺を背後に突き飛ばした。

「ハァ……ハァ……クソっ……口の中が……タバコ臭え……ッ」
「だったら……ハァ……口の中を舐め回すなクソが……ハァ……」

 口の端から少しだけ唾液がたれていた。それがどっちの唾液かは分からないが、とにかくそれを親指で拭う。それは木曾も同じようで、口の端を同じく親指で拭っていた。

「クソっ……今更なんなんだ畜生……相棒だと思ってたんだぞ俺は!」
「相棒の唇を奪って何が悪いんだクソッタレ……お前だって、俺に唇押し付けたろうが! 最後ぐらい素直になれよ相棒だろうが!!」
「素直になれって……ハァ……バカだろお前……ハァ……」
「うるせえ……うるせえよ……ハァ……」

 しばらくして息が整い、次第に木曾も冷静さを取り戻し始めた。俺の息も整いつつある。さっきのキスの感覚は、口の中に生々しく残っている。

「ハァ……ふぅ……」

 木曾が大きくため息を漏らした。距離が離れているから、俺の手は、もう木曾には届かない。さっきまで互いに求めあっていたのが嘘であるかのように、目の前の相棒には……木曾にはもう、俺の右手は届かない。

「おい木曾」
「あ?」
「生きろよ。……絶対に生き延びろよ」

 俺にはもう、駄々に近いワガママしか、木曾に届けることは出来ない。二人の間には、俺から見える以上に、距離が開いているようだ。

「……いつまでだ。なぁ相棒……俺はいつまで生き延びればいいんだ」
「全部終わるまでに決まってるだろ。全部終わって、戦争なんか気にしなくてよくなるまでに決まってるだろうが」
「……生き延びたらなんかいいことあるのか」
「俺がさっきの続きをしてやる。俺の女にしてやる」

 さっきより若干赤みを帯びた木曾の唇が、いつもの笑みをニッと浮かべた。

「……ったく。勝手な奴だ……突然キスしたり、俺の女にしてやるだなんて偉そうに……口説き文句にすらなってない……」
「うるせえよ……」

 その笑みはいつもの木曾の笑みだったが、グリーンを帯びた水晶のような瞳は、キラキラと輝いていた。

「……わかった。俺は生き残る。全部終わらせたら、俺はお前の元に行く」
「……」
「その代わりお前も約束しろ。俺が戻るまでにタバコはやめろ」
「……あ?」
「もうさっきみたいなヤニ臭いキスは嫌なんだよ。いくらお前の匂いだって分かっててもな」

 いつもの笑顔のまま、しかしいつもより美しい眼差しで、木曾は俺を指さした。ポケットの中のソフトケースに触れる。中にはまだ、十数本のタバコが残っている。

「……わかった。も
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