アインクラッド 後編
血路にて嗤う
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ぶつかり合う音に、幾十にも混ざり合ってさざ波の音のように形を変えた、恐らくは声や雄叫びの集合体。この先で、今まさに戦闘が行われているという証拠だった。マサキはこの先で戦っているはずのキリトとアスナをほんの一瞬だけ思い浮かべ、口と鼻から空気を吐き出して再び歩き出し、数メートル先で歩を止めた。そこには高さ一メートルほど、幅八十センチほどの穴があり、その先に奥行き十メートルほどの空間が存在する。碌な使い道もない、マップデザイナーのミスがそのまま製品版まで残ってしまったような構造だが、アルゴが見つけたというメモにはマサキを連れて来い、との一文の他に、この穴をくぐれ、という指令も書かれていたのだ。敵の指示通りに行動するのはリスクもあったが、今はこれ以外にエミの居場所が分からない。行くしかない、と結論を出し、マサキはその穴を潜り抜けた。
穴の向こう側に広がっていた空間は、メインの道から外れたにしては広々としていた。今まで通ってきた穴よりも少し横幅は狭いが、二人が並んで得物を振るうこともできそうだ。と、軽く周囲に目をやったマサキが慎重に進もうとしたその時、マサキの目に何かキラリと光る物が見えた。その部分に意識を集中させ、ディテール・フォーカシングシステムが視線の先を鮮明に映し出し――マサキは足音を消すことも忘れ全速力で前方に跳んだ。
「お、おいマサキ!?」
クラインの慌てた声すらマサキの耳には入らない。一足で一番奥まで突っ切り、行き止まりになった壁の亀裂に刺さっていた濃紺色の結晶と、それに引っかかっていた、白地に黒の水玉模様が描かれたシュシュを手に取った。見間違えるはずもない、エミが普段着けているものだ。
「おいマサキ、これってよ……」
「……ああ。エミのだ」
「もう一つは回廊結晶か……普通に考えりゃ、これで移動しろってことなんだろうが……」
エギルがマサキの手から結晶を取ると、マサキはもう片方の手に持ったエミのシュシュを強く握り締め、空いた片手で頭をガリガリと掻き毟った。回廊結晶で飛んだ先に、エミが無事な姿でいてくれればいいが、それだけを望むのは楽観的すぎる。相手はあの嗤う棺桶なのだ、どんな罠が張り巡らされているか分かったものではない。いや、罠だけならいい。こちらには、エミが今生きているという確証すら無いのだから。
周囲の音が遠くなり、自分の呼吸が煩い。地に足が着かない、どこまでも自由落下しているような浮遊感を覚え、マサキの両脚から力が抜けかかる。そんなマサキが我に帰ったのは、急に頭を地面に押さえつけられた瞬間だった。
「あぐっ!?」
「マサキ! ……馬鹿野郎! こんな時に呆けてる場合かよ!!」
受身も取らず地面に頭を叩き付けた衝撃で若干クラクラする意識を必死に繋ぎとめ、地面から離れた方の目
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