アインクラッド 後編
血路にて嗤う
[1/7]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
二つの背中が目の前でぼんやりと揺れている。先を行く二人の速度はマサキからすればジョギング程度のスピードで、その気になればいつでも置き去りにできるのにも関わらず、マサキの足は回転数を上げる素振りさえ見せなかった。何度かそれを考えたことはある。しかし、結局のところ毎回実際に脳から指令を出すには至らなかった。
こんなことに付き合わされて辟易しているから? クラインが言ったように、彼らを壁にすれば効率がいいから? 幾つかの理由をでっち上げては自問し、半笑いで投げ捨てることの繰り返し。バラエティのクイズ番組みたいなものだ、答えなんて誰の目にも明らかなのに、分かっていない道化を演じ続ける。だから嫌なのだ。エミが無事であってほしいという祈りも、それに反発して逃げ帰りたいと叫ぶ嗚咽も、逃げ帰ったところでより強い後悔と自己嫌悪が待っているだけだと悟った諦観も、全部滑稽ったらない。
「……見えてきたな」
思考の独り相撲を取りつつも、マサキの脳は聴覚野に届いたエギルの小さな声を逃さず拾い上げた。無駄な思考ばかりしたがる脳内回路を意識的に切断して目に映る情報に思考のリソースを割り振ると、はっきりと焦点の合った世界に、洞窟の入り口らしき窪みが見えた。そんな分かりきったことをエギルがわざわざ発言したのは、緊張故か、或いは緊張による沈黙を少しでも緩和しようとしたのか。どちらにせよ、声色同様に彼らの表情も硬いのだろうとマサキは推測した。
「《索敵》と《隠蔽》、もう一度確認しておけよ」
マサキは二人を追い抜きざまに声を掛けた。戦闘の気配が色濃くなったせいか、自然と頭の中が整理されていく感覚。何て都合のいい脳みそだろうと、マサキは歪めた口からふっと息を零した。
洞窟入り口の近辺まで来たところで、一度岩陰に身を隠し周囲を索敵。嗤う棺桶の連中も、攻略組のメンバーも見えないということは、まだ中にいるのだろう。無事作戦を終え後処理に奔走しているのか、それとも今まさに血みどろの決戦を繰り広げているのか――ここからは知る由もなく、知らずに終われるならばそれに越したことはないインフォメーションだ。
マサキは声を発する前に、小さく息を吸い込んだ。
「行くぞ」
「ああ」
「おう」
二人の返事を聞き届けると、マサキは振り返ることなく、そのスピードからは考え付かないほど小さな足音だけを残して洞窟の中に身を投じた。
じめじめとした湿気と淀んだ空気。一見すればただの洞窟タイプのダンジョンでしかない穴倉を進む。《蒼風》の柄頭に手を乗せ、それまでと同じように次の一歩を踏み出して、マサキはコンマ数秒躓いたように静止した。
「……何かあったのか?」
「……やってるらしい」
洞窟の奥から響く、キィン、キィンという金属同士が
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ