暁 〜小説投稿サイト〜
整備員の約束
3. 人煙
[5/5]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話
らが俺のことを指名する。……つまり、俺の腕を認めてくれているということだ。昼間の木曾の言葉をそっくりそのまま流用すれば、こいつらは俺に対して、『命を預けても良い』と思っているということになる。

 逆に言えば、俺はこれからの仕事で、ミスが許されない、気が抜けない立場になったというわけだ。こいつらの命は、俺の腕にかかっている……。

「しゃーない……お前らの艤装は、俺に任せろ」
「わーい! ありがとうございます徳永さん!」
「口に牛乳ついてんぞ小僧」
「だからまるゆですって……」
「……ありがとな、徳永」
「おう任せろ。今日みたいなことには、もうならねーよ」
「ああ。お前が調整してくれてるってだけで、安心して出撃出来るぜ」

 両手を上げてはしゃぐまるゆに比べ、木曾の喜び方は静かだった。

 だが喜びは本当らしく、木曾はいつも笑顔をニッと浮かべた後、自分が持つ酒が注がれたおちょこを、俺が持つコップにチンと軽くぶつけてきた。

「……」
「……ん? どうした徳永?」
「……いや」

 その音は、俺の耳には、妙に美しく響いた。


 翌日、俺がいつものように整備場の自分の作業スペースに出勤したら、見慣れた艤装が2つ、置いてあった。

「……?」

 荷物をおろし、椅子に腰を下ろして2つの艤装を確認する。……まるゆと木曾の艤装だった。

「よっ。お前ご指名らしいな」

 同僚の一人が、すれ違いざまにニヤニヤと笑いながらそう言い放っていく。それぞれの艤装には、一枚ずつ紙切れが貼り付けてある。それをペリッとはがし、目を通した。

「……ぷっ」

 目を通し終わった後、その手紙を壁に貼り付け画鋲で固定した。

 貼り付けたそれらをひとしきり眺めた後、今日の仕事の準備を始める。軽くストレッチをした後、工具箱からレンチを一本取り出した。サイズは13ミリ。

 まずはまるゆの主機からだ。2つの艤装のうちまるゆの主機を手にとって、俺は丁寧にボルトの一本をゆっくりと緩め始めた。

――今日からよろしくおねがいします まるゆ

――主砲の照準が少しだがずれてる気がする よろしく頼む 木曾?

[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ