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ラジェンドラ戦記〜シンドゥラの横着者、パルスを救わんとす
第二部 原作開始
第二章 王子三人
第二十五話 師弟二人
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で旧師の名を呼ぶ。バフマンの顔に僅かに痛ましげな色が浮かんだ。

「ヒルメス、この場ではあえて呼び捨てにさせてもらおう。ヒルメス、お主は何故ルシタニアの侵略に手を貸した?何故ルシタニア兵がパルスの軍民を虐げるのを黙ってみていた?答えよ!」

「そ、それは…」

それまでであれば、パルスの民が正統ならざる王を奉じていたからだと抗弁することが出来たであろう。だが、俺の言葉が真実かもしれないと考えてしまった時点でその様に舌は動かない。縫い留められたかのように動きを止められてしまっていた。

「儂には先程のあの王子の話が真実なのかどうかは判らん。儂に判るのは、お主が守り慈しむべき民を、救うこともせず苦しめたということだけだ。しかし、その一事だけでも、お主には為政者の資格がない。お主は己の罪を償うため、今ここで死ぬべきだ、ヒルメス!」

抜き身の剣を手に、バフマンがゆっくり一歩、また一歩とヒルメスに近づく。ヒルメスは気圧されるように下がろうとするが、傷口の痛みに顔をしかめ、動きを止めてしまう。逃げられない、と悟った時、ヒルメスの中で何かが壊れた。もはや彼はダリューンと互角の剣士ではなくなっていた。

「うわあああ、来るな、来るなあ!」

叫ぶというよりも、子供のように泣き喚いた。子供に戻ってしまったかのように、頻りにイヤイヤをするように首を振る。それでも何一つ現実が変わらないことを悟ると、何か頼れるものがないかと傷を負っていない左手で手元を探り始めた。その手に何かが触れた。取り落としてしまっていた剣だった。それを覚束ない手付きで逆手に握ると、

「やめろおおお!」と一薙ぎした。その瞬間だけは剣士の魂が蘇ったのかもしれない。その一撃は過たずバフマンの胴を薙いだ。傷口から血がしぶき、内臓がこぼれた。しかし、それでもバフマンは止まらない。表情すら動かない。何事もなかったかのようにヒルメスに近づき、肩に手を回して抱きとめるかのように動きを止めさせ、ヒルメスの背中を自分ごと剣で貫いた。

「ぐはっ!」

バフマンが血の塊を吐き出し、それがヒルメスの顔を直撃した。その不意打ちにヒルメスが自分を取り戻した。そして、自分と旧師がどんな状態になっているかを悟った。

「ば、バフマン…、何故お前まで…?」

「弟子の不始末は師匠の責任ですからな。儂も一緒に頭を下げると…致しましょう…」

「…済まぬ、済まぬバフマン!俺を…俺を許してくれ!」

ヒルメスは泣きじゃくってバフマンの体にしがみついた。そんなヒルメスをバフマンは優しく抱きしめる。

「ふふ、謝るべきは儂に対してではございませぬぞ?ですが、儂は貴方を許すと致しましょう。ヒルメス殿下、今まで苦しかったでしょうな。寂しかったでしょうな。一緒に居てやれなんだ儂をお許しくだされ。
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