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ラジェンドラ戦記〜シンドゥラの横着者、パルスを救わんとす
第二部 原作開始
序章 王都炎上
第十九話 焚書未遂
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も大概にしてもらおう!お前たち、撤収だ。本は全て元に戻し、この場を掃き清めて立ち去るのだ!良いな!」
「ははっ!!」
うなだれる大司教を尻目に周りのルシタニア人たちが慌ただしく動き出した。多くのものは広場に無造作に積み上げられた本をまとめて図書館に戻しに行き始め、大司教は聖職者たちに促され、いずこかへ戻っていく。また、バルカシオンと呼ばれた老人に小柄な騎士装束を纏った者―騎士見習いだろうか?―が嬉しげに駆け寄っていくのも見えた。
「ナルサス、良かったではないか?本が焼かれずに済んで」
「いいや、そうでもないぞダリューン。これはな、政治的な見世物さ。聖職者の長を公衆の面前で論破し、更に王権に従わさせることで、教会権力の失墜を印象づけたのだ。更にルシタニア人全てが野蛮で傲慢な征服者ではなく、異なる文化に敬意を払う理性的な強者だと見せようとしたのだ。多分、あの王弟とやらが仕組んだのだろう。全く、ルシタニアにも食えない奴が居る…」
その時、居合わせた人々の耳を鋭い羽音が叩いた。一人の男の胸にいずこからか飛来した矢が突き立ち、ゆっくりと前のめりに倒れた。
「伯爵様!バルカシオン様!」
騎士見習いと思しき者が必死に呼びかけるも、何一つ言葉を返さぬまま息を引き取った。
「ナルサス、あそこだ!」
ダリューンが指差す方向、広場の北にある家の屋根に弓を携えた人影が見えた。ラクシュ殿か?いいや、違う。彼女はアルスラーン殿下や他の者達と一緒に郊外の無人となった集落に潜んでいる。それとは別の何か良からぬことを企む者の仕業だろう。
「追うぞ、ダリューン!」
俺たちは弓を持ったまま逃げ去ろうとしている人影を追いかけ、駆け出した。
◇◇
バルカシオン伯爵はいつも私の事をエトワールと呼んだ。何度も「私の名前はエステルです。エトワールなどという名は捨てました!」と訴えても、その場は詫びるものの、次に顔を合わすとやはり私をエトワールと呼ぶのだ。古い友人だったという祖父から託された私をまるで本当の孫娘のように思ってくれていたのかもしれない。女の子なのだから、戦いの悲惨さなどとは無縁でいるべきだと本当は言いたかったのかもしれない。でも、もう何も言ってくれない。答えてさえくれない。一本の矢がこの方の命を奪っていってしまったから。
「おのれ、誰だ!誰が殺した!誰がこの矢を打ち込んだのだ!」
伯爵様のご遺体を抱きかかえたまま、周りを見回す。するとおずおずと答える者があった。
「どこから飛んできたものかは判りませんが、だとするとこれは『弓の悪魔』の仕業かもしれません」
「『弓の悪魔』だと?何なのだそれは!」
「先日、ジャン・ボダン大司教を遠矢にて殺した者です。この方の死因も弓。だとすれば、おそらくは…
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