第三章
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「その力ならだ」
「どんな魔物や敵軍にもか」
「一人で勝てる」
そうなるというのだ。
「だからだ、そなたに最初から備わっている心とだ」
「この力でか」
「ロシアを守るのだ、いいな」
「さっきまで歩くことも出来なかった俺がか」
イリアは驚愕したまま応えた。
「それをするのか」
「キエフに行くのだ」
「そしてウラジーミル卿のところに行け」
「あの方の下で戦うのだ」
三人はイリアにこのことを告げた、そうしてイリアから馳走になった後で彼に礼を言って聖地に向かった。
イリアは彼等を見送るとすぐに両親を探した、そして彼等がいる畑に行って大きな声で叫んだ。
「見てくれ、俺を」
「何っ、御前立ってるじゃないか」
「そして歩いてるじゃないか」
両親はその彼を見て驚いた。
「どうしたんだ、一体」
「家を出た時にはそんな素振りもなかったのに」
「実はな」
イリアは巡礼の者達のことを話した、そして言うのだった。
「こうしたことだったんだよ」
「そうか、それでか」
「歩ける様になったの」
「不思議なこともあるもんだ、いやこれがだよな」
イリアは両親に対してこうも言った。
「奇跡だよな」
「ああ、神様のな」
「間違いないわね」
「じゃあ神様のご加護を得たのならな」
「それならね」
「わかってるさ」
イリアは両親に確かな顔で答えた。
「それじゃあこれからな」
「ああ、戦って来い」
「この国の為にね」
「そうしてくるな」
「いいか、それでな」
「守ることは守ってね」
両親は旅立つ我が子にこうも言った。
「何の理由もなくて人を殺すなよ」
「みなしごを作ったら駄目だよ」
「女子供は大事にしろ」
「この三つは絶対に守るんだよ」
「わかった、そうしてこの国の為に戦うな」
イリアは両親の言葉に強い誓いの言葉で応えた、そしてだった。
キエフに行き国を脅かす敵と戦っていった、彼は両親との誓いを忘れることなくそうしたという。歩けなかった男だったがこの上なく確かな心と力を持つ戦士になった。それがイリア=ムウロメツという男である。
英雄のはじまり 完
2018・4・20
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