第二章
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「それ以上のこの世のものとは思えぬ」
「そこまでのですか」
「美しさだ」
こう言ったのだった。
「あの美しさはな」
「お気に入られましたか」
「まことにな、ではな」
「明後日にですか」
「舞を舞ってもらおう」
「わかりました」
阿国は信長に応え彼に下がれと言われ座の者達と共に彼の前を後にしたことを思い出した、その時に彼は阿国と寄り添う様にして非常に顔の整った男がいたのを見た。
だがそのことには何も言わず彼は蘭丸に言った。
「今宵わしは一人で寝よう」
「お一人で」
「うむ、一人でな」
こう言うのだった。
「そうする」
「わかりました」
「わしに仕えて日の浅い者達もおろうが」
そして自分のことをよく知らないというのだ。
「わかっておるな」
「はい、決してですね」
「変に気を利かせるかわしへのご機嫌取りかにしてもな」
「それでもですな」
「その様なことは一切無用だとな」
「上様にとっては」
「そのことはお主から伝えておく様にな」
このことを言ってだった、信長は今宵も次の日も一人で寝た。そして阿国の舞を観た後は彼女にも座の者達にも褒美を多く与え礼を告げたうえで帰らせた。
そしてだ、やはり阿国達を都まで送った蘭丸が安土に帰ってからこう言ったのだった。
「実にな」
「見事な舞であった」
「安土に呼んでよかったわ」
こう言うのだった、だが言っただけであった。
阿国の美貌に信長は確かに惚れ込んでいた、しかしただその舞を観ただけだった。それで城に入ってまで日が浅い者達は不思議に思った。
「上様は阿国を床に呼ばなかったな」
「うむ、夜には」
「一切な」
「何もされなかった」
「指一本触れられなかった」
「阿国が安土にいる間ずっと一人寝であられた」
このことを不思議に思うのだった。
「上様も色はそれ程お嫌いではないが」
「衆道もお好きだが」
「しかしな」
「阿国程のおなごに指一本触れられぬとは」
「どういうことか」
「上様のご権勢なら何でもないこと」
「それこそ指を動かす様なことだというのに」
阿国を床に呼び相手をさせること、そのことはというのだ。
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