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メイクアップ
第五章

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「私のね」
「私そんなになの」
「ええ、美人になってたわ。皆の話題独占だったわ」
「台詞なくて舞台にいただけなのに」
「それだけでもね」
 エキストラとしていただけでもというのだ、舞台の上で。
「皆が注目する位奇麗だったから」
「先輩にメイクしてもらってね、私自身ね」
「びっくりしたの」
「これが私って。けれど」
「けれど?」
「別にね」
 それはと言うのだった。
「いいわ」
「そうなの」
「ええ、メイクはね」
 それはというのだ。
「別にいいわ」
「折角評判なのに」
「だってね」
「自分がやると?」
「難しいし面倒だから」
 それでというのだ。
「もうね」
「いいのね」
「このままでいいから」
「そうなの」
「そう、別にいいわ」
 そうだと言うのだった。
「私はね」
「何か拍子抜けね。けれどね」
「けれど?」
「あんたがそれでいいならね」 
 ゆかりは笑ってあくまでメイクやお洒落には興味がない由衣に話した。
「いいわ」
「そうなの」
「ええ、それならね」
「そうなのね」
「由衣ちゃん自身がいいなら」
「気が向いたらするかも知れないし」
 自分自身からというのだ。
「それでね」
「別になの」
「いいわ」
 こう話してだ、そして実際にだった。
 由衣はこの日からもメイクをせずお洒落をしなかった、それでだった。あの美人が誰かという話は自然に時間と共に消えて。
 後には何も残らなかった、だが。
 由衣はそれからもメイクやお洒落には気を使わないで生きていったがそれがかえって肌や髪の毛を荒らさず何時までもよく見ると整っていると言われ続けた。そうして結婚して子供達にも何時までも奇麗だと言われ内心喜ぶことも出来たのだった。


メイクアップ   完


                  2018・3・14
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