第一章
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ブレザー
ブレザーにはネクタイが付きものだ、少なくとも制服ではそうだ。
それで釘宮亜李は受験した学校の合格発表を見て家に帰ってから母に言った。
「お母さん、ネクタイの締め方教えて」
「ああ、あんた合格したのね」
「ええ、相武高にね」
公立のこの学校にというのだ、県内では公立では結構な進学校で穏やかな校風で知られ亜李も自分の成績とも相談してその校風を見て受験したのだ。
そしてだ、合格したのを確認してから母に言ったのだ。
「合格したから」
「あそこブレザーだからね」
「そう、それでね」
今は中学の制服のセーラー服を着ているがだ、それがというのだ。
「ネクタイ締めないといけないから」
「そんなの普通でしょ」
母は娘に素気ない口調で返した。
「別に誰かに教わらなくてもね」
「いいっていうの」
「あんなのネットか本でちょっと調べたらね」
素っ気なくかつ何でもないといった口調だった。
「もうそれでね」
「書けるの」
「そうよ」
こう言うだけだった。
「本当にね」
「私そうは思わないけれど」
亜李は母にむっとした顔で返した、そしてこう言ったのだった。
「だから聞いてるのに」
「そうなのね、じゃあね」
「まさかここでもなの」
「ええ、ネットか本でね」
こうしたものでというのだ。
「調べればいいじゃない」
「全く、ぞんざいな言い方ね」
「ぞんざいも何もね」
母は今は台所にいる、そこで包丁をせっせと使いつつ娘に話した。
「お母さん今忙しいのよ」
「晩御飯の用意で?」
「そうよ、見てわかるでしょ」
包丁を使いつつ娘に言うのだった。
「そんなことは」
「それはね」
見れば包丁でキャベツを切っている、その包丁捌きは見事なものだ。
亜李はここでセーラー服の上から着ていたコートを脱いだ、そうしてふと自分の顔を窓のガラスを使ってみた。豊かな頬を持つ細い蒲鉾形の目とピンクの唇を持つ顔で黒髪を首の付け根の高さで揃えている。背は一五三程でまだ幼い身体つきだ。
その自分自身を観つつだ、亜李はさらに言った。
「けれどね、私一人でね」
「じゃあ後でお父さんに聞いてね、お母さん今は忙しいから」
「じゃあね」
「というかネクタイの締め方とか」
それこそと言う母だった。
「また言うけれどね」
「何でもないっていうのね」
「最初はちょっと戸惑うでしょうけれど」
「慣れるっていうの」
「締めてるとね」
そのうちにという返事だった。
「そんな深刻なものじゃないわよ」
「そうかしら」
「そうよ、お母さんだってそうだったし」
「お母さんも高校時代ブレザーだったのね」
「ええ、けれどもうね」
「締めてるうちになの」
「慣れたし」
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