第五章
[8]前話
「それでね」
「それでなの」
「そう、それでね」
それ故にというのだ。
「産女って言われも」
「知らないの」
「そう、産女って妖怪だよね」
「妊娠中に死んだ人が妖怪になったのよ」
早希はその産女の話をはじめた。
「それであんたにしたみたいにね」
「赤子を抱かせてくるんだ」
「あんたが言った格好で出て来てね」
「そうだったんだ」
「鳥の姿で出る時もあるみたいだけれど」
早希は洋平に産女のその話もした。
「人間の姿で出る時はね」
「白い着物を着てるんだ」
「前が血で赤く汚れてなかった?」
「夜だからそこまでわからなかったよ」
暗くてだ。
「けれどそうなんだ」
「それで赤ちゃんを抱かせてくるけれど」
「赤ちゃん重くなるんだ」
「下手したらその重さで潰されてるのよ」
「えっ、そうだったんだ」
「あんた堪えられなかったら死んでたわよ」
潰されてというのだ、赤子のその重さに。
「けれど持ち堪えたらね」
「今の俺みたいになんだ」
「凄い力がつくのよ」
「そうだったんだ」
「そうよ、それでね」
「俺今凄い力がついたんだ」
「そうだと思うわ。まあその力でね」
早希は弟に笑ってだ、励ます様に言った。
「就職してもね」
「重いもの持ててだね」
「そっちの心配はなくなるわ」
「そうなんだ、じゃあね」
「ええ、球場職員の場所頑張ってね」
「そうさせてもらうよ」
洋平は早希に笑顔で応えた、だがここで。
早希は弟にだ、こう言ったのだった。
「じゃあ今日もね」
「今日もなんだ」
「そう、社会人としての心構え話すわね」
「最近ずっとだね」
「だって学生時代とはまた違うから」
それで話すというのだ。
「それでなのよ」
「姉さんは心配性だよ。義兄さんも言ってるけれど」
「弟の為なら一肌二肌もよ」
「昔からお母さんよりそう言うのね」
「弟の為なら当然でしょ。じゃあいいわね」
姉はこの日も弟に社会人としての心構えを話した、そのうえで洋平は大学を卒業して社会人となったが。
怪力だけでなく姉から言われ続けた社会人としての心得をいつも頭に入れて働いた結果その仕事ぶりを評価された、それで産女だけでなく彼女にも感謝するのだった。
大阪の産女 完
2018・7・30
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