第三章
[8]前話
「さて、人として暮らしていき」
「天寿を全うすればな」
「あの娘は神となる」
「その時に力に目覚めてな」
神のそれが出るというのだ、人として天寿を全うしたその時にこそ。
「ではな」
「今は見守ろう」
「あの娘が人として生きていくのを」
「これからの人生をな」
高天原の神々はこう話していた、そしてだった。
ハナを見守っていた、だがハナはそのことに全く気付かず人として生きていた。そしてこの日は休日で朝から農家で仕事をしていたが。
その中でだ、彼女は農家のおじさんとおばさんにお昼をご馳走になったが胡瓜や茄子の漬けものだけは食べず。
他の料理を食べていた、それでこう言ったのだった。
「塩分が適度で美味しいです」
「いや、これ薄くないか?」
おじさんはハナが美味しいというその料理を食べてこう言った。
「ちょっとな」
「お塩足りなかったかしら」
おばさんもその料理を食べてこう言った。
「これは」
「そうだよな」
「私はこれでいいです」
だがハナはこう言うのだった。
「お塩苦手なんて」
「ああ、ハナさん塩辛いの駄目か」
「だからお漬けもの食べないのね」
「はい、お塩苦手なんです」
それでというのだ。
「ですから」
「そうした好みなんだな」
「そうみたいね」
「じゃあ塩辛とか塩ジャケも駄目か」
「そうよね」
二人でハナに話した。
「だったらな」
「今度からハナさんには塩気の強いもの出さないわね」
「そうしたのが駄目な人がいるしな」
「それならね」
「すいません」
こうおじさんとおばさんに応えたハナだった、このことはカタツムリであるが故だった。だがそのことに誰も不思議に思わずだ。ハナは人間として天寿を全うするまで誰にもカタツムリと気付かれずに過ごすことが出来た。穏やかで心優しい人として。そしてその性格はナメクジやカタツムリの神になってからも変わらなかった。
人間になった理由 完
2018・7・28
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