暁 〜小説投稿サイト〜
真田十勇士
巻ノ百四十六 薩摩入りその十

[8]前話 [2]次話
「拙者はこれ以上はないまでに幸せな者じゃ」
「大助様も立派になられた」
「だからですか」
「そう言われますか」
「その様に」
「うむ、お主達がいて武士道を歩めてじゃ」
 そしてというのだ。
「あの様な見事な息子までおる、だからな」
「今の様に言われましたか」
「これ以上はないまでに幸せ者だと」
「そうなのですな」
「そうじゃ、家臣であり友であり義兄弟であるお主達がいてな」 
 そしてというのだ。
「あの様な息子がおる、しかも武士道を歩めておる。約束も果たせたしな」
「関白様とのそれも」
「そのことも出来た」
「それ故に思われたのですか」
「今の様に」
「心からな、悔いはない。しかし死ぬつもりもない」
 幸村は十勇士達にこうも語った。
「それは何故かはわかるな」
「はい、我等十一人生きるも死ぬも同じ」
「義兄弟として友として」
「死ぬ時と場所は同じです」
「だからこそ」
「そうじゃ、右大臣様に勝って帰ると約束した」
 ほかならぬ幸村自身がだ。
「そうした、ならばな」
「次の戦でもですな」
「死なずにですな」
「駿府から勝って帰って」
「そうしてですな」
「そうじゃ、全員生きて帰ってじゃ」
 そうしてというのだ。
「右大臣様に勝ったと申し上げるぞ」
「では、ですな」
「駿府の戦が最後になろうとも」
「それでもですな」
「我等は死なぬ」
「決して」
「その通りじゃ、絶対に死んではならん」
 幸村の言葉は澄んでいた、何処までも。
「わかったな」
「承知しております」
「何があろうとも生きて帰りましょうぞ」
「それも笑って」
「勝ったと右大臣様に申し上げましょう」
「そういうことじゃ、我等が死ぬのは駿府ではない」
 主従十一人が共に死ぬ時と場所はというのだ。
「ではな」
「駿府で思う存分戦いましょうぞ」
「後藤殿、長曾我部殿、明石殿と共に」
「大助様も交えて」
「十五人か、一騎当千の者達が」
 ここでまた笑って話した幸村だった。
「これ以上はないまでの陣営じゃ、ではな」
 幸村はここまで行ってだった、今は話を止めて再び鍛錬をはじめた。薩摩での暮らしは平穏なものだった。
 だが夜空を見てだ、彼は十勇士達に苦い顔で述べた。
「よくない、そろそろな」
「まさか」
「まさかと思いまするが」
「大御所殿が」
「うむ、大きな将星が落ちようとしておる」
 幸村にはわかった、今その星が空から落ちようとしているのが。それで共に夜空を見ている十勇士達にも話すのだ。
[8]前話 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ