純粋なお遊び
合縁奇縁のコンサート 3
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親愛からくる衝動でも、あの子にとっては、凶悪な欲望でしかない。ただ頭を撫でてあげたいだけの気持ちが、どれだけ、あの子を悩ませたか。ただ笑顔を見ていたいと願ったことが、どれだけ、あの子を苦しませたか。あの子はきっと、毎日毎日、女神アリアにこう祈っていたでしょうね」
『ロザリアに危害が及ぶ前に、早く! 早く私を『罰して』!』
ポタリ、と。
白く滑らかな布の上に落ちた涙が、シワの輪郭をなぞりながら更に下へと零れ落ち、絨毯に柔らかく吸い込まれていった。
「ねえ、ミートリッテ。誰よりもそれが社会の枠組みに外れた行いであると認識し、誰よりもその行為を忌み嫌い、誰よりもその苦痛を理解していて、それでもなお罪を犯してしまった自分自身を心から恐れて憎み、早く誰かに罰して欲しいと、そう渇望している罪人を裁くことに意義はあると思う? 当事者達の、少なくとも一人とは親交がなく、事情を聴いただけで、現場に居合わせたわけでもない、王国を守る法律の番人を務めているわけでもない部外者の私達が、被害者のロザリア様が現在彼の傍に居る意味を無視して、私達の常識や不快感を持ち出し、あの子を一方的に糾弾して良いと思う?」
残り一年もないところまで寿命を削ったと言われているあの子に。
これ以上、何を背負わせれば、適切な対応だと言える?
私達は、それをしても良い立場に居る?
「…………っ」
表情を変えないプリシラ様の頬に伝う、一筋の涙。
(日頃から感情を表に出すなと言っていた、あのプリシラ様が……)
涙は、凄惨な過去を背負っているクロスツェルさんへの同情?
それとも、かつての仲間が暴挙を働いていたことへの失望と怒り?
(……違う)
彼女は次期大司教を自負する高潔な女性だ。
そんな安っぽい感情に左右される筈がない。
(プリシラ様は……)
「わかりません。でも、クロスツェルさんの行いが看過されて良いものではないことだけは確かです。こうしている間にもあの人は罪を重ねている」
右手で私自身の袖を摘まみ。
ぴくりとも動かないプリシラ様の頬をそっと拭う。
「あの人がどんな辛い道を歩んできたかなんて聴かされても、私はあの人に良い感情を抱けません。そんな背景があったのなら仕方ないですよね、とも思えません。同情の余地も一切ない。だからと言ってロザリア様との関係を責められる立場にもありません。あの人は私にとって、私が敬愛する貴女を傷付けている人に過ぎませんから」
近くに居たのに。
同じ中央教会で、同じ志を持って、同じ時間を過ごしていたのに。
プリシラ様には救えなかった。
クロスツェルさんの苦しみに寄り添ってあげられなかった。
貴方も誰かを愛して良
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