暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
純粋なお遊び
合縁奇縁のコンサート 3
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()怖がっていたわ。だから、他人と距離を置きながら一生懸命、自分自身を抑えつけていた。唯一、母親と一緒に信仰していた、女神アリアだけを心の拠り所にしてね」
「クロスツェルさんは浮浪児になる以前からアリア信徒だったんですか?」
「そうよ。あの子のご両親は二人共、あの子が産まれるずっと前から敬虔なアリア信徒だった。そんな二人から教えを引き継いでいるあの子は、いっそ生まれる前からのアリア信徒と言っても、間違いではないでしょう」

(……だから、か)

 年齢や性別や環境は違うが、浮浪児と呼ばれる経験なら私にもある。
 そして、アリア信仰の性質は基本的に『親和』と『共生』。

 アリア信仰の教えは、浮浪児(はじかれもの)の現実を内包していない。

 奪ってはならない、皆で協力し合って生きよう、などというアリア信仰の教えを浮浪児が守ろうとすれば、近い将来で待っているのは自滅。
 弱者の従順など、実質は『遠巻きな自殺』だ。

(クロスツェルさんは生きたかった。でも弱者や浮浪児に差し出される手はあまりに少ない。幼い彼が生きていく為には他から物を奪うしかなかった。アリア信仰が罪と定める『略奪』しか、生きる術がなかった。幼い時分から敬虔なアリア信徒だった彼には、それがどうしても赦せなかったんだ)

 生きたい。
 でも、罪を犯さなければ生きられない自分は、どうしても赦せない。
 そんな、自力ではどうしようもない葛藤が、自分の罪と他人の罪に境界を見出せないほどの罪悪感を生じさせ、自分自身を救いようがない重罪人だと思い込ませたのだ。

(実際、他人からの強奪行為は許されるべきじゃない。それがどんな結果をもたらすか、私自身も身をもって思い知ったもの。けど、これは……)

「誰も傷付けたくないし、苦しませたくない。アリア様の教えを広めれば、自分に関わったせいで苦しむ人をちょっとだけでも減らせるかも知れない。クロスツェルにとっての『女神アリア』は、正しく導きであり救済だった。たった一つの光だった。彼が女神アリアを連想させる容姿や力を持っているロザリア様に惹かれたのは、私から見ればごくごく自然な流れだわ。でも、彼自身には受け入れがたかった」
「……誰かに惹かれる自分が、怖かった?」

 見えない手に掴まれた心臓が痛い。
 堪らず長衣の胸元を強く握り締めた私に、プリシラ様が浅く頷く。

「誰かに心惹かれれば、その誰かを見ていたいと思う。ずっと見ていたら、言葉を交わしてみたいと思う。言葉を重ねたら、今度は傍に居たいと思う。ずっと傍に居たら、触れてみたいと思う。……多分、恐怖を感じ出したのはこの辺りね。他人への好意は、あの子の中で母親を死に至らしめた行為へと繋がる害意であり、女神への背信を顕す罪業よ。それがたとえ仔猫を愛でるような
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