純粋なお遊び
合縁奇縁のコンサート 3
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児達が守ろうとすれば、近い将来で待っているのは「自滅」。「遠巻きな自殺」だ。
(クロスツェルさんは生きたかった。でも、浮浪児に差し出される手はあまりにも少ない。幼い彼が生きていく為には、他人から物を奪うしかなかった。アリア信仰が罪と定める「略奪」しか、生きる術が無かった。敬虔なアリア信徒たる彼には、それがどうしても赦せなかったんだ)
生きたい。でも、罪を犯さなければ生きられない自分は赦せない。
そんな葛藤が、自分の罪と他人の罪に境を見出せないほどの罪悪感を生じさせ、自分自身を救いようが無い重罪人だと思い込ませたのだ。
(実際、他人から物を奪う行為は許されるべきじゃない。それがどんな結果を齎すか、私自身も身を以て思い知ったもの。けど、これは……)
「誰も傷付けたくない。苦しませたくない。アリア様の教えを広めれば、「自分に関わった所為で」苦しむ人を少しだけでも減らせるかも知れない。クロスツェルにとっての女神アリアは、正しく「導き」であり「救済」だった。たった一つの光だった。彼がアリア様の色彩を持つロザリア様に惹かれたのは、私から見ればごく自然な流れだわ。でも、彼には受け入れ難かった」
「……誰かに惹かれる自分が、怖かった?」
見えない手に掴まれた心臓が痛い。堪らず長衣の胸元を強く握り締めた私に、プリシラ様が軽く頷く。
「誰かに惹かれれば、その誰かを見ていたいと思う。ずっと見ていたら、言葉を交わしてみたいと思う。言葉を重ねたら、今度は傍に居たいと思う。ずっと傍に居たら、触れてみたいと思う。……多分、恐怖を感じ出したのはこの辺りね。他人への好意は、あの子の中で母親を死に至らしめた行為へと繋がる害意であり、女神への背信を顕す罪業よ。それが例え仔猫を愛でるような親愛から来る衝動であっても、あの子にとっては凶暴な罪悪でしかない。ただ頭を撫でてあげたいだけの気持ちが、どれだけあの子を悩ませたか。ただ笑顔を見ていたいと願うことが、どれだけあの子を苦しませたか。あの子はきっと、毎日毎日女神アリアにこう祈っていたでしょうね」
『ロザリアに危害が及ぶ前に、早く! 早く私を「罰して」!』
ポタリ、と。
白く滑らかな布の上に落ちた滴が、皺の輪郭をなぞりながら更に下へと零れ落ち、絨毯に柔らかく吸い込まれていった。
「ねぇ、ミートリッテ。誰よりもそれが社会の枠組みに外れた行いであると認識し、誰よりもその行為を忌み嫌い、誰よりもその苦痛を理解していて、それでも罪を犯してしまった自分自身を心から恐れて憎み、早く誰かに罰して欲しいと渇望する罪人を裁く事に、意義はあると思う? 当事者の、少なくとも一人とは親交が無く、事情を聴いただけで現場に居合わせた訳でもない、国法の番人を務めている訳でもない部外者の私達が、被害者
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