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カラミティ・ハーツ 心の魔物
Ep9 フェロウズ・リリース
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目した。
(まずい、このままじゃフェロンがやられる!)
 フェロンのあの片手剣はリクシアを守るために投げられ、もう手が届かない場所にある。
 リクシアは獣のように唸り、叫んだ。
「私は決めたんだよッ! だれも死なせないってッ!」
 その紅い瞳が、決意を宿す。
「だから――私の大切な人に近づくなバカヤローッ!」
 威厳も格好良さもへったくれもなく。ただ純粋に、幼馴染のためを思って、
 リクシアはフェロンと「ゼロ」の間に、割って入った。
「リア!?」
 フェロンの驚いたような声。
 リクシアの身体が切り裂かれる。血しぶきが飛ぶ。焼けるような痛みが彼女を襲い、リクシアは慣れぬ激痛に涙をこぼした。
 それでも、リクシアにはさがれない理由があった。
(――でもッ! あたしの後ろには友がいる! 守らなきゃならない人がいるッ!)
 理由はそれだけで、十分だった。後ろにフェロンを庇い、一歩も引けなくなった状況下、リクシアは己の中に新たな力が芽生えたのを感じた。その力は莫大だった。そしてそれは緊急時にしか使えない類のものだった。これまでのリクシアは緊急事態とは程遠かったけれど、今こうして「ゼロ」と対峙し、フェロンを後ろに庇ったことによって彼女の新たな力が目覚めたのだ。
 リクシアはニヤリと笑い、唱える。
 大召喚師の妹たる、その名を賭けて、一つの、呪文を。
 彼女の声が朗朗と響き渡る。驚いた「ゼロ」は警戒したまま動かない。リクシアにとっては好都合である。
「天の彼方なる不死鳥よ、我呼ぶもとへ、舞い来たれ! 互いの尾を噛む円環の蛇、続く輪廻を解き放て! 我に仇なす究極の敵! 我は呼ばん、我は呼ばん!」
 あふれかえる力が渦を巻き、やがて天空に大きな魔法陣が描かれる。
「すべて巻き込み千切り裂け! 次元の彼方へ放り出せ!」
 風もないのに揺れる髪、炎を宿したその瞳。

「――フェロウズ・リリース!」

 途端、天上より光が降ってきて、「ゼロ」に勢いよく突き刺さった。
「ぐあッ……!」
 うめく「ゼロ」に、もう一撃。
 漆黒の衝撃波が、彼を弾き飛ばし、反対の壁に衝突させた。
「あぐぅッ……!」
 そして目に見えぬ風が、その肌を幾重にも切り裂いた。
 リクシアは唸るように叫ぶ。
「仲間を傷つける者は、許さないッ!」
 動かなくなった「ゼロ」の身体が、現れる闇に飲み込まれた。
 気が付いたら、「ゼロ」の姿はどこにもなかった。当然だ、リクシアがまったく別の所に放逐したのだから。仲間を傷つけたとはいえ、彼は最初から「ゼロ」であったわけではない。リクシアにとって、殺す理由は存在しなかった。あんな状況にあったのに、なぜかリクシアの心は理性を保てていた。
 後ろに守るべき人がいるから。
 リクシアは知っている。「ゼロ」になる
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