22話→家族(後編)
[5/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
だが、出来なかった。
『聞いても、お前じゃどうにも出来ない』
そういった意味の返答が返ってくるのが怖かったから。
無意識に手を見る。
七年間、兄の残した器具や指導書で鍛えた、豆だらけの手。
確かに積み上げたその力で、一夏は兄を少しでも助けられれば。そう思っていた。
(まあ、結果はあの様だけどな)
一夏に他人の心を読める異能があるわけではない。
兄がどのくらい一夏を評価し、本気を出していたかなど、言われなければ分かる訳がない。
事実だけ言えば、兄と一夏の戦闘は一方的な『兄の勝ち』だった。
その事実は、一夏の心に、少なくない傷を作る。
昔、子供の頃は踏み込むことができた、兄との『距離』が、今はひどく、遠かった。
(くそっ、気を抜いたら…………眠く…………)
悩んでいるうちに、戦いの疲労が溜まった一夏の体を、睡魔が襲う。
無理もない、深い怪我等は無かったが、全力で戦闘行動を格上に行った『つけ』は、無意識のうちに一夏の体に負担をかけていた。
そのため、体が休める状態にあることで、蓄積された疲労が次第に表面化。
結果として、既に寝そべっていた体は、容易に眠りに堕ちていった。
…………どれだけ、経った後だろうか?
『やあ、はじめまして』
その言葉が、鼓膜を震わせ、一夏は『起きた』。
一夏の目が、『開かれる』
白一色の、奇妙な空間の中で。
(…………なんだ?ここは?)
先程割り当てられた自分の部屋とは似ても似つかないこの場所に、ただただ困惑する一夏。
「ああ、いたいた!」
すると、いくらもしない内に、何故か家族でも、友人でもないのに聞き覚えのある声が、鼓膜を震わせた。
瞬間、白だけの世界に色がつく。
突如、現れた『銀髪の少女』によって。
自然界では有り得ない銀髪をショートカットに、ノーネクタイのスーツで身を固めた、美しい少女。
(誰だろう…………)
声には聞き覚えがあるが、姿には全く覚えがない。
そんな、不思議な彼女の登場に困惑する一夏を尻目に、彼女は一方的に話し始めた。
「あー、ごめんね遅くなって!脳波トレースシステムを通して、君に逢いに来たんだけど、手間取っちゃった!」
一夏、意味が分からず、困惑する。
だが、相手方もそれは承知していたのか、さらりと銀髪の少女は、続けて言葉を口にした。
「あはは、私の姿は初めてでも、私の声には聞き覚えないかな。これでも、君のおにーさんが送ったシミュレーターのナビをしてあげたりしたんだけど?」
「…………あっ!?」
そうか、それで!
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ