変生
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式神に足止めさせているあいだに紺は右手の指で剣指を作り、みずからの口元へ添えて祝詞を唱える。速い詞とともに吐かれた火が、青い帯のように指から手、腕にまで巻きついていく。
「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、前、行!」
臨める兵、闘う者、皆、陣を列べて前を行く――。
火のまとわりからむ指を相手へと向けて振るう。九字切りだ。
カンバラの身体は炎の格子に包まれ、燃え上がる。
「ぎゃーッ!?」
炎はすぐに消えたが、カンバラは意識を失い、その場に崩れ落ちた。
山内くんには見覚えのある術だった。去年の夏におなじように火炎を生じさせ、悪霊を祓ったところを直に見ている。
「それ、人にも効くんだ……。でもだいじょうぶ? けっこう燃えてたんだけど」
「物理的に燃えたりしないよう調整してある。燃えたのはよくないものだけだ」
「よくないもの?」
「そう。こいつに憑いていたよくないものを焼却したつもりだったんだけど、生焼けだったみたいだな。思ってたよりタフだわ、こいつ」
地面につっぷしていたカンバラが上からの糸に引かれたマリオネットのような動きで立ち上がる。それは常人の所作ではない。
「ぐ、ぐうううぅぅぅウウウゥゥゥッ! GURURURURUッッッ!!」
その身体から赤い靄のようなものが立ち上る。
鬼気、邪気、妖気、瘴気――。
山内くんはそれがそのような、禍々しいオーラのたぐいだと直感した。
カンバラに起きた異変はそれだけではない。
瞳から黒目がなくなり白濁し、肌が赤銅色に変色して筋肉が隆々と盛り上がる。こめかみのあたりが鋭く隆起してゆく。
角だ。
角が生えてきた。
いまやカンバラの姿は物語に登場する鬼そのものと化した。
「きるきるきるきるキルキルキルキル切る切る切る切る、斬る、斬る! 斬るっ! すべてぶった斬るぅぅぅゥゥゥッッッ! おまぇらもぅ、おれもぅみんな斬るぅぅぅ〜」
剣鬼と化したカンバラが、こともあろうにおのれの腹にナイフを突き立てる。
毒々しい鮮血がまき散らされ、血腥い臭気がただよう。
血臭に込められた禍々しい気に影響を受けたのか、あたりの景観が歪んで見えてくる。路地裏だった場所は半ば異界と化し、山内くんは去年の夏に足を踏み入れた闇宮の中を思い出した。
おぉい おぉい おぉい――。
呼びかけるような声とともに、ざんばら髪をした白装束の老人たちや、ぼろぼろの甲冑を着た落ち武者のようなものらが路地裏の影から現れる。
おぉい おぉい おぉい――。
血塗られた刀や槍を手にし、怒っているよな笑っているような表情を浮かべて青白い鬼火につつまれているその姿は幽鬼そのもの、この世のものではないと一目瞭然だ。
おぉい おぉい
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