変生
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、引っ込めろよ」
紺の目線が異形のカラスに向けられ、それ呼ばわりされたされたおからすさまが抗議の鳴き声をあげる。
「ええと……、おからすさまおからすさま、お帰りください」
素直に従う山内くん。だがおからすさまのほうは素直ではなかった。
帰れと言われておとなしく帰れるか。嘴からはガアガアと、尻尾の蛇はシャーッと威嚇の声をあげ、猿の手のような足は地団駄を踏み、羽根をばたつかせて全力で拒絶の意を示す。
おからすさまは山内くんの先祖が、祝部が巫蠱の術で作り上げた対人用の呪詛式。いちど召還されたからには血を見るまでは、命を啄むまでは帰らない。
ひとたび抜き放たれたら必ずだれかを斬らねばおさまらぬ邪剣妖刀のごとき厄介な性分の持ち主なのだ。
「ちっ、しょうがねえなぁコレやるからおとなしくご主人様の言うこと聞けよ」
紺が鞄から出したのは丸い飴玉。山内くんには見覚えがある、それはさっきまで遊んでいたゲームセンターのクレーンゲームの景品だ。珍しい外国産の、いかにも味の濃そうなチェリーキャンディーだったので覚えていた。
「紺、ゲーセン居たの? 清麗て、ああいう盛り場への立ち入りは保護者同伴じゃないと行けないんじゃ……」
「こまかいことはいいんだよ」
「でも、規則を破るのは筋が通らないことだと思うよ」
「そんなことより今はとっととおからすさま帰せ!」
おからすさまは紺の与えた丸い飴玉を飲み込むと、山内くんの命令を受け入れて姿を消した。
おからすさま、鉢割鴉は卵や丸いおにぎりや果物。とにかく形の丸いものを好み、お供えに求める。
それは人の頭の代用。鉢割烏の鉢とは人の頭を指す。人の頭部を好んで啖うものなのだ。
「テメェ、コラ、クソガキ、無視すんなゴラァ!」
いきり立ったカンバラが赤錆びた刃を振り回して近づいてくる。
紺を守らなきゃ。だが山内くんが動く前に紺が動いた。
「陰陽に使役されし、彩鱗の式神よ、我がもとに集い、その力を示せ。疾く!」
鞄の中からいくつもの朱色の塊が飛び出して凶刃を振るうカンバラの周りを飛び交う。
金魚だ。
赤い金魚がまるで水のなかを泳ぐかのように空中を飛翔し、撹乱する。舞い踊る蝶の群れや桜吹雪さながらに。
これで凶刃を振るう暴漢さえいなければ、実に妖しく幽かな夢幻美の情景であったろうに――。
「うがぁッ! どりゃぁッ! ウボァーッ!?」
奇声をあげてめったやたらに刃を振るうものの、かすりもしない。
「吾が心の臓は秘なり、軻遇突命護り座ましますなり。奇火は神の身ゆ出でぬ、横津枉れる敵を、悉斬失す火剣、熾かりて焚きて障は消けにけり!」
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