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カラミティ・ハーツ 心の魔物
第一章 始まりの戻し旅
Ep2 大召喚師の遺した少女
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……大事ない、この程度。フィオを守るために、動けなかっただけだ」
 言って、彼は腕に抱いた白い少年のことを意味ありげに見つめた。フィオというのは、彼が腕に抱いた白い少年のことらしい。
「とりあえず、助かった。オレだけじゃ、フィオを守りながらだと正直きつかったかもな。あんたは魔導士か?」
 黒い少年の問いに、ええ、とリクシアは返す。
「はじめまして、私はリクシア・エルフェゴール。光と風の魔法を使うわ。あなたは?」
「アーヴェイ。こっちはフィオルだ。ん? エルフェゴール? 聞いた名前だな……」
 リクシアはうなずいた。
「大召喚師、リュクシオン・エルフェゴールのこと、聞いたことある? 私は彼の妹よ。国外にいたから、災厄から逃れられた。国外に逃がされたから、私は今生きていられるの」
 アーヴェイと名乗った少年は皮肉げにその口元を歪めた。
「……あの元英雄の妹か」
 その口調は、リュクシオンを知っているようだった。
 リクシアは訊ねる。
「兄さんをご存知なの?」
「ああ」
 アーヴェイと名乗った黒い少年は頷いた。
「オレはウィンチェバルの者ではないが……。ウィンチェバルをふらりと旅した折、一度だけ、力を得る前の奴に会ったことがある。とにかく必死でちっぽけな魔法の才を磨こうとしていて、少しでも国のために、国のためにって……そこには狂気じみた盲信のようなものを感じたが、人となりや印象は悪くなかった」
「そっか……」
 それを聞いて、リクシアは複雑な気持ちを抱いた。
 リュクシオンはリクシアにとって、優しく格好良いお兄ちゃんだった。リクシアが泣きだせば優しくその頭を撫でてくれ、リクシアが不機嫌な時は根気強くその理由を聞いて原因を解決しようとしてくれた。しかし彼は「国のために」を掲げてそれにひたすら突き進み、滅多に家に帰ってくることはなかった。だからリクシアは兄が好きだけれど、同時に滅多に帰ってこない兄に対して、寂しさのようなものを感じていたのだ。リクシアにとっては国のことなんて正直言ってどうでもよかった。彼女はただ、家族で平和な日々を送りたかっただけなのだ。
 そんな彼も、全て報われずに魔物になった。
「アーヴェイ、さん」
「アーヴェイでいい。何だ」
 リクシアは、一つ訊いてみた。
「……魔物になった人って、元に戻るって思ってる?」
 途端、アーヴェイの表情が一気に暗くなる。リクシアは、彼の触れてはならないものに触れてしまったと知った。
 アーヴェイの赤い瞳が地獄を宿して、静かに言う。
「……戻したい人がいる。戻るわけがなくとも、諦められない人がいる」
「…………!」
 それは半ば、彼にも魔物となった大切な人がいる、と言ったも同然だった。
 魔物になった大切な人がいる。そのつらさ、その悲しさは、魔物となった兄を持つ
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