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カラミティ・ハーツ 心の魔物
第一章 始まりの戻し旅
Ep2 大召喚師の遺した少女
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リクシアははっとなった。光と風の魔導士である彼女は、懐に忍ばせた杖を握りしめる。彼女に召喚師の才こそないが、代わりに彼女はそこそこ優秀な魔導士だった。
 やがて彼女は見つけた。街の真ん中で、狂ったように暴れだしている人ならぬ異形を。
「本当は、魔物すべてを元に戻せればいいんだけどっ!」
 しかしそもそも方法がないし、もしもそんな方法があったとしても、そこまでの慈愛は持ち合わせがない。彼女は兄を救うだけで精一杯なのだ。魔物化した人間なんて、この世界には限りなくいる。それだけ、人を狂わせる原因は各地に広がっているのだ。この世界はそんな世界だ。
 逃げ惑う人々の波をかき分け、リクシアは見た。腕に意識を失った白い少年を抱き、座り込んだまま迫りくる魔物を迎え撃たんとする、鋭い目をした黒い少年を。
 全てを救おうなんてリクシアは思わない。それでも、目の前にいる人くらいは救いたいと思った。そのための力だ、そのための魔法だ。
「光よ来たれ、敵を撃て!」
 とっさに叫び、放たれる呪文。それは魔物の目を灼いた。
 目のくらんだ魔物は怒りの咆哮を上げ、魔法の来た方向にその体の向きを変えて闇雲に突進しようとする。そんな魔物に対して、挑発するようにリクシアは叫んだ。
「あなたの相手はこの私よ! 馳せ来たれ、心の底なる、風の狼!」
 続いて唱えられた呪文。どこからともなく、風でできた半透明の狼が現れ、魔物に勢いよくぶつかって押し倒した。
 悲鳴。視力を奪われた魔物は必死に抵抗するが。その身体を魔物の爪で牙で裂かれても、風の狼は魔物を攻撃し続けた。そもそも風に実体なんてない。風の狼を倒すには、相手も魔法を使わなければならない。
「彼方を駆けよ!」
 叫べば、狼の力が強くなる。
「さぁ、とどめよ! あなたは元は人間だった、それはわかっているけれど……仕方がないでしょ、魔物になっちゃったんだから!」
 風が魔物の喉を切り裂き、そして魔物は息絶えた。すると、魔物の遺体は男の遺体に変化する。。
 魔物になっても、心が消えても。死んだら元の、人間になる。魔物は最初から魔物だったわけではない。彼らは心を闇に喰われただけで、そうなる前は人間だったのだ。
 だから、リクシアは魔物になった人間を殺すことを辛く思う。殺したら、人間だった元の姿が現れる。それを見るとリクシアは、自分が人殺しをしたような、何とも言えない重い罪の意識を感じるのだ。
 リクシアは遺体から目を上げた。結果として助けることになった先ほどの少年たちに近づいていく。彼女は優しく声を掛けた。
「大丈夫? どこか、怪我とかない?」
 近寄ってみると、黒い少年が足に怪我をしていることがわかった。心配げな彼女に彼は冷静に返す。その声は低めだ。彼は漆黒の髪と赤い目をしていた。歳はリクシアよりも上だろうか。

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