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気まぐれ短編集
花言葉 
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、しなびた茎が髪の隙間から見え隠れする。
 効かなかったお守り。
 彼の頭が、現実を認識することを拒絶した。
 嘘だ嘘だこんなの嘘だと、彼の心が必死で叫んだ。
 それでも、声がしたから。


「クローバー……そこにいらっしゃるの……?」


 彼ははっとして、血まみれの彼女を抱きあげた。「僕はここにいるよ」と必死でその耳元に囁く。
 でもこんな日でも、彼女からは甘い匂いが漂っていた。それは血の鉄の匂いと混じり、むせ返るような臭気に変貌する。
 彼女の名はダフネ。永遠と栄光。不死と不滅を意味する名――。
 それなのに今、彼女の命は途絶えようとしていた。
 血濡れて気持ち悪いくらいに真っ赤に染まった唇が言葉を紡ぐ。
「間に合って良かった……」
「ダフネ、ダフネ! 何があった! 君は一体何者なんだ! どうしてこうなった!」
 慌てる彼の質問のすべてに応えるほどの力はもう、彼女に残されてはいなかった。
 今にも絶えようとしている息の下、永遠と栄光はそっと囁く。――永遠を約束されたはずの栄光は、そっと囁く。
「やんごとない身分……。言ったでしょう……? 私は邪魔だったから消された……」
「聞いた! 君は王の姪なのか、だから狙われたのか! だから殺されるのか、なぁ!」
 彼の叫び声は、今まさに死に逝かんとしている彼女にとってはうるさいくらいだった。
「クローバー……幸運と約束……」
 彼の名を呼んだ彼女は。
 最期の台詞を、彼にしか聞こえないくらいの音量でつぶやいた。


「復讐には……走らないで……」


 彼はその言葉を聞いて、全身が冷えていくような気がした。
 あの出会いのあと、彼は自分なりに調べたのだ。「クローバー」の花言葉について、詳しく。
 クローバーの花言葉は「幸運」と約束」。そして。


――あとひとつ、「復讐」。


 彼女は知っていたのだろうか。彼の持つもう一つの花言葉を。
 どこまでも甘い香りが漂う。それは血の匂いと混ざり合って、狂気じみた香りとなる。
 そして彼はようやく思い出した。ダフネと名乗った彼女の、花の意味を。

「……沈丁花(じんちょうげ)」

 永遠と栄光。不死と不滅。彼女がいつもまとっていた甘い匂いの花。
 それは、沈丁花。
 ずっと忘れていた、彼女の花の名。
 クローバーは見た。自分の腕の中でそっと目を閉じるダフネ――沈丁花の花を。
 昨日まで話していた彼女はもう、二度と目を覚まさない。
 彼は小さくつぶやいた。
「ダフネ、ごめん。僕はもう、幸運にも約束にもなれそうにないんだ」
 だって約束は破られたから。幸運のお守りはまるで効果がなかったから。
 その瞳に炎が宿る。
 クローバーは低い声で宣言した。


「幸運でも約束
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