花言葉
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それは国が荒れはじめた時のこと。
「私、少し不安ですのよ」
いつも妖艶に笑っていたダフネ。おおよそ彼女らしくなと思ったクローバーは、どうしてそんなことを急にと訊き返した。すると彼女は答えた。
「私、ただの貴族じゃなくってよ。やんごとない身分の娘なのですわ。最近あちこち物騒になったと聞きましたもの……。こんな時は、貴方の『幸運』にでも縋ってみたいところ」
彼女と話すことで教養も身に付いたクローバーだったが、彼には「やんごとない」の意味がわからなかった。しかしその後の文脈から、高貴なという意味だけは汲み取れた。
高貴な人間は常に政争の真っ只中にいる。その身に何が起きてもおかしくはない。
現在は動乱の時期だった。彼女はだからこそ怯えていたのだ。自分の身に災厄が降りかかることに対して。
震える彼女を彼はそっと抱きしめた。その日も甘い匂いがした。
彼は言う。
「僕が、守るから」
たとえ平民にすぎなくたって、僕が君を守るからと彼は何度も何度もつぶやいた。
その日、彼は道端で四つ葉のクローバーを見つけていた。彼は摘んだ一本のそれを、彼女の髪に挿した。お守りになるように。
彼女の綺麗な金色の髪に、鮮やかな緑色した四つ葉のクローバーはよく映えて。
「素敵だね」と彼が笑えば、彼女はその顔にいつもの笑みを宿す。
「立派なお守りですわ、これ以上ないくらいに」
平民の彼は貴族の彼女の家に直接かかわることはできないが、彼のおかげで彼女は笑顔を取り戻した。
だが、やがて時間が来る。帰らなければならない時間が。
暮れゆく貴族街を見つめて、彼女は頭の四つ葉のクローバーに触れながらも言った。
「また会いましょう、幸運と約束。また明日、会いましょう」
約束よと笑った彼女は、その顔に切なげな笑みを乗せていた。
彼は彼女のそんな表情、見たくはなかったから。
「約束するよ、絶対に。また明日、ここで会おうって」
強く強くそう誓って、彼は彼女の壊れ物のように華奢な手を握った。
そうして二人は別れたのだ。
変わらぬ明日を信じて。
◆
その次の日、彼が貴族街で見たのは騒動。
人々の叫び声。「王の姪っ子が殺された」とわめく声。
彼はその言葉に何か感じるものがあった。
クローバーは思い出す。彼女の言っていた言葉、「やんごとない身分」。
集まる人だかりを掻き分けてみたら、聞いたことのある声がする。
それは彼女のお付き人のカンパニュラの、慟哭だった。
彼は急いだ。
そして見たのは。
「ダフネッ!」
綺麗な金の髪を血で濡らし、骨の折れた日傘を隣に転がして倒れる、
――ダフネだった。
彼女は胸から血を流していた。彼の挿してあげた四つ葉のクローバーは枯れて
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