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気まぐれ短編集
花言葉 
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運と約束。それはささやかで小さくて素朴なもので、あまりにも平民的だったけれど。自分の名前、その意味をよく知らなかった彼は嬉しくなって思わず、彼女に訊ねた。
「君の名前の意味は何?」
 彼の言葉に、無礼者めと誠実のカンパニュラと呼ばれたお付きがわめいたが、彼女は悪戯っぽく自分の人差し指を相手の口元に当てて、「黙ってくださる?」とジェスチャーをした。
 黙り込んだカンパニュラを見て、彼女は妖艶に笑った。
「私の名前はダフネ。ダフネとは**の花のこと。その意味は栄光と不滅、永遠。美しいでしょう?」
 彼女はその時一回だけ、花の名前を告げたけれど。
どうしてだろう、彼は忘れてしまった。
 彼女の名前の意味は永遠。幸運と約束みたいなちっぽけなものではない。
そう、永遠なのだ。決して終わることはないという、絶対的な概念。永遠の栄光。それを聞いて、貴族の彼女らしい名前だなと彼は思った。
 それはただの小さな出会いだった。貴族街に迷い込んだ雑草と、貴族街に最初から住まう高嶺の花と。
 ただのすれ違いだった。すれ違っただけの邂逅だった、のに。
 それきりで終わるはずだったのに。
 彼女は彼に言ったのだ。
「ねぇ、約束のクローバーさん。私、あなたのことが気に入りましたの。良かったらまた、お会いしません?」
 それは、ささやかな「約束」。
 カンパニュラがやめろと止めるが、それでもダフネは意に介さないで。手に取った彼の手を自分の手に絡ませた。小指と小指が結ばれる。
「迷っただけなら平民街までの地図を差し上げますわ。だから」
 約束しましょうと彼女は笑う。彼は彼女にされるままになっていた。
 栄光の花の艶やかな唇から、吐息とともに言葉が漏れる。
「約束しましょう、また会うと。だってあなたの名前は『約束』。私の『栄光』のために、約束を守ってくださる? そして誓いましょう、再会を。この邂逅を、天に感謝して」
 カンパニュラの制止なんて聞かない。二人はしっかり指切りをした。約束は結ばれたのだ。
 帰り道がわからないという彼のために、彼女は手ずから地図を書いた。教養の少ない彼にもわかるよう、平民街までの道を簡潔に記して。
 彼女は言ったのだ。
「またいつでもいらっしゃい。私はずっと待っていますわ」
 それが。
 それが、彼と彼女との出会いだった。

  ◆

 それからというもの、彼は毎日ダフネに会いに行った。会うたびに彼女は彼と楽しげに歓談し、楽しい時を過ごした。カンパニュラの態度も次第に軟化していき、ある時ダフネは「カンパニュラの花言葉は誠実と節操なのよ」と教えてくれた。生真面目な彼らしいなとクローバーは思った。
 そんな日々を過ごしていくうち、二人はいつしか子供から少年少女になった。
 そしてある時、ダフネは言った。
 
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