第2章 項羽と劉邦、あと田忠 〜虞兮虞兮、奈若何〜
第5話 項羽ジェノサイド
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に、項羽の首を取って、咸陽脱出の時間稼ぎをするのが、田忠の作戦だった。
「項羽よ、どこだ!! いるならでてこい!! 正々堂々勝負しろ!」
「はーーはっはっは、俺が項羽だ! お前が仙人か! 面白い! 叩き切ってその肉を食ってやろう!!」
まったく慌てた素振りをみせず、豪快に笑いながら女傑が登場した。項羽である。
スラリとした長身の野性味あふれる女性である。筋肉ゴリラを想像していた田忠は意外そうな顔をしたあと、驚愕した。
「ん? 何を驚いてんだ? まさか、今更びびってんじゃねえだろうな?」
隙をついて切りかかる項羽を、何とか錫杖で受け止めた。
「くっ、予想外だ。奥の手だが仕方ない……」
「何をごちゃごちゃ言ってやがる! お前は強いが俺の敵じゃねえな!」
数合打ち合わせるが、田忠が押され気味だった。そのとき、田忠が叫んだ。
「界王拳!!」
「なにっ!?」
突如、田忠の気が爆発的に高まると、今までの劣勢が嘘かのように項羽と、互角に打ち合い始めた。
大気を震わせ大地に亀裂が走る。
彼らの周囲ではいつの間にか戦いが止み、その行方を両軍の兵士が固唾をのんで見守っていた。
やがて、経験の差だろうか、田忠が徐々に項羽を押していく。
項羽の顔に焦りが見え始めたころ、老人が現れた。
「そこまでにせよ」
項羽軍を出奔したはずの范増だった。
そのそばには、喉元に刃をつきつけられた司馬欣と董翳がいる。
「二人の命が惜しくば降れ」
田忠の顔に苦悶が走る。だが、項羽は意外な行動をとった。
「何をしている范増!! 俺の神聖な決闘を汚すつもりか!!!」
「ほっほっほ、老い先短いわしから、不出来な豎子への最後の手向けよ。婦人の仁に感化されてはならんと言ったはずだ。真に天下が取りたくば、わしの言うことを聞け」
結局、項羽は首を縦には降らなかった。それどころか、義に反する、と范増を一喝した。
しかし、項羽軍は、すでに混乱から立ち直りつつある。潮時であった。
もはや田忠に司馬欣と董翳を助ける余裕はなかったのである。
「秦を……頼みます!!」
「小僧、あとは任せた!」
わが身を顧みず田忠へと思いを託す二人を背後に、撤退した。目に涙を浮かべながら、逃げたのだ。
田忠にとって初めての敗北だった。
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